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愛媛県史 社会経済3 商 工(昭和61年3月31日発行)

一 明治七年の生産物構成

 明治七年「物産表」

 明治新政府は明治四年(一八七一)八月の廃藩置県によって、中央集権的な統一国家としての第一歩を踏み出すことになるが、その経済的基盤を把握し、とりわけ当面の緊急課題である財政の基礎を確立するため、各種の統計調査事業に着手した。早くも明治三年九月から民部省の手によって、「府県物産調」が行われたのをはじめ、同四年の戸籍法の公布に伴い、同五年一月から「戸口調査」が全国一斉に実施され、さらに同六年七月の地租改正条例に基づく「全国土地調査」などが開始された。府県物産調査の集計結果である内務省勧業寮編『明治六年府県物産表』及び『明治七年府県物産表』は、わが国生産統計の最古資料である。とくに『明治七年府県物産表』は三府六〇県を網羅し、明治初期の全産物を示すものであり、当時の全国の物産状況とともに、愛媛県の産業構造を知るうえでも重要な資料である。「府県物産表」は府県別に各種生産物の生産数量と生産価額を表示している。しかし、府県間において調査方法令数量表示法に大きな差異があり、全国集計値は主として価額によらざるをえない。
 「物産表」については、古島敏雄氏が整理・集計された資料がある(地方史研究協議会編『日本産業史大系・総論編』附表第一―第三)。同資料によれば、ほとんどの府県において物産の第一位は米であり、全国の米の生産価額は物産総価額の三八%、農産物価額の六三%を占めていた。水稲・麦類・雑穀類・園芸・畜産などの農林水産物の生産比率が約七〇%、醸造物類・縫織物類・綿類・油類・紙類・製茶類などの農産加工品及び鉱産物の生産比率が約三〇%であった。この数字から食糧農産物生産を大宗とする明治初期の産業・経済の姿をうかがうことができる。もっとも後にみるように府県により生産物構成にかなりの相違があり、当時の産業の地域配置における一つの特徴をなしている。
 ところで、明治七年という時点は、幕末期に旧幕府や諸藩によって設置され、明治初年に新政府に接収された軍事工場や一部工業及び佐渡・生野などの旧幕府鉱山や、三池・高島炭鉱など諸鉱山が官営され改善が加えられたのを除けば、未だ殖産興業による新産業の展開もあまりみられず、地租改正事業も基礎調査に着手したばかりであった。まさに、幕藩体制下の経済から新しい近代産業の展開へ向けて胎動が始まる過渡期にあったといえよう。その意味において、以下の「物産表」分析の結果は、愛媛の幕末における状況を反映するとともに、その後の展開の起点における産業概況を示している。

 愛媛県生産物構成の特色

 表産2―1は、明治七年の愛媛県の物産状況を示したものである。生産数量については、『資料編社会経済上、産業構造、明治七年愛媛県物産計表』参照。まず、原資料の類別集計を整理して生産部門別構成をみると表産2―2のようである。もっとも原資料の類別集計はしばしば原料品と加工品を一括して計上してあり、部門別分類は必ずしも農産物と工産物を正確に区分表示していない。たとえば煙草は農産物に分類集計されているが、これには原料葉と製品を含んでいる。
 同年の愛媛県の総生産価額は約七一一万円で、全国の約二%を占める。農林水産物総生産価額は約四八〇万円(総生産価額の六七・一%)
で、そのうち農産物が約四三一万円(同六〇・七%)、林産物二五万
円(同三・五%)、水産物二一万円(同二・五%)を占めている。農業に圧倒的な比重をおいた当時の産業構造の特色を示している。また、工産物の生産価額は約二一五万円で、鉱産物一八万円と合わせて鉱工産物は総生産額の三二・七%を占める。鉱工産物価額の総生産価額に占める比率は、六一府県(記載の不十分な滋賀・鹿児島両県を除いた六一府県)の中で第一一位と高く、農業県と目されていた愛媛県の幕末・明治初期において、意外と思われるほどの高い工業力を示している。
 続いて、類別に生産価額の高いものをみると、第一位は穀類であり、生産価額は三二七万円で総生産価額の四六%という高率を占めている。第二位は醸造物類の約七五万円、同じく全額の約一一%を占め、次いで第三位の園蔬類附生乾約四一万円、同六%などが主要産物である。さらに生産価額二〇万円以上の物産を見ると、縫織物類附蟻裁細工約三六万円(同五%)、禽獣類約三四万円(同五%)、紙類附細工約二七万円(同四%)、油蝋類約二五万円(同四%)、飲料及食物類約二四万円(同三%)、虫魚甲具類附生乾塩約二一万円(同三%)となっている。諸機械類附農工具金属細工は、わずか六万円(同一%)にすぎない。以上のところから、主穀農業を中心とする自給自足的色彩の強い経済から、蔬菜・原料作物における商品生産の展開とともに、織物業・製紙業・製油業を中心に農村加工業がしだいに発展しつつあった明治初年の愛媛県の産業・経済の姿をかいま見ることができる。
 続いて以下において、この段階における愛媛県の主要生産物の生産展開とその内部構成を概観しておこう。

表産2-1 明治7年愛媛県の物産一覧

表産2-1 明治7年愛媛県の物産一覧


表産2-2 生産部門別構成

表産2-2 生産部門別構成