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愛媛県史 社会経済2 農林水産(昭和60年3月31日発行)

三 事業内容


   1 明治・大正・昭和初期の事業項目

 昭和初期までの事業

 水産試験場創設時から昭和一〇年頃までの事業は表11-5のとおり漁労・製造・養殖の各試験と講話・講習・実地指導などであった。
 漁労試験……鰮片手廻巾着網漁業、小型発動機漁業、電気集魚灯の使用など、当時としては開発途上部門の実用化試験が活発に行なわれそれぞれ相当の成果が得られ、後世における実用化のめどがつけられた。
 製造試験……カマボコ缶詰・カツオ節の製造技術試験や雑魚の有効利用試験など、当時としての社会的要請に合致した項目がとりあげられた。
 養殖試験……現在はほとんど行なわれていない水田養鯉試験が重要項目としてとりあげられているほか鯉・鰻・食用蛙など内水面養殖試験が積極的に行なわれた。また海面ではノリ・カキ養殖の普及指導を目的とした試験も実施された。
 講話講習実地指導……明治四二年~大正二年における講話・講習・実地指導は表11-6のとおり漁労・製造・養殖・その他水産全般に関する奨励普及事項について各地域毎に実施し漁業者の知識の向上を図った。


   2 昭和四九年の事業項目

 事業の特色

 高度経済成長と都市化の急速な伸展経過を経た昭和四〇年代末期における水産試験場の試験調査項目は表11-7のとおりである。この時代の調査の特色は水質汚濁調査など社会的ニーズから生まれた項目が幅広くとり入れられ、懸案問題解決の基礎資料に供せられたことであった。
 資源調査……この分野では魚礁設置に伴う適地調査や事業効果試験が行なわれたほか、本州四国連絡架橋影響調査が実施せられ、工事中の濁りがイシダイ・ガザミの卵稚仔に与える影響や、架橋地点におけるマダイ一本釣り漁業の実態調査が、日本水産資源保護協会からの委託事業として大規模に実施された。
 環境調査……沿岸水質・赤潮発生予察・魚貝類中の重金属の含有量・養殖飼料中のPCB含有量・産業排水・肥料・都市下水などすべての汚染物質(特に窒素・燐)の流入量の把握調査など漁場の環境保全のための諸調査が重点的に実施された。
 増殖試験……栽培漁業推進の一環として、ガザミ・アワビ・アコヤガイ・イシダイ・アユ・オエテナガエビなどの種苗生産が増殖関係の最重要課題として着目される時代となり、種苗の効果的な放流技術の確立が急務であった。これとともにハマチ・タイなどの養殖技術の向上に不可欠とされる魚病の原因究明と防疫並びに薬剤の治療試験が真剣に行なわれ、魚病防止の基礎資料に供せられた。


   3 昭和五七年の事業項目

 従来から実施している試験項目については原則として省略することとし、昭和四九年以降の新しい研究調査について概説する。

 資源調査

 二〇〇カイリ時代を迎え、沿岸海域における重要魚種の資源量と卵稚仔の分布などの基礎調査や、栽培漁業を進めるうえで重要なイシダイ・ガザミなどの放流技術の研究が新たに実施されるようになった。

 環境調査

 特殊プランクトンによる貝類への毒性が全国的な問題として大きく注目されるに至り、この対策の一環として県内の主要貝類の一つであるアサリと貝類の指標的な意味をもつムラサキイガイについての麻ひ性毒素と下痢性毒素についての調査を燧灘で実施したがいずれも問題はない結果が出た。また有用水産動物稚仔の繁殖と育成場として重要な意味をもつガラ藻場のうち従来あまり知られてなくその造成技術も確立されていないネジモク・トゲモクの群落生態に関する調査を三崎町沖で実施した。この調査は国が全国的な規模で行なうマリンランチング計画にもとづいて行なうもので近海有用漁業資源の家魚化システムの開発を目途とするものである。
       
 増殖試験

 (魚病関係)
 魚類養殖の伸展に伴いますます多発化の傾向にある魚病対策の一つとして、クロラムフェニコール・塩酸オキシテトラサイクリン・アミノベソジルペニシリン・ニフルスチレン酸ナトリウム・オキソリン酸・エリスロマイシン・ドキシサイクリン・エンボン酸スピラマイシンの計八剤について魚病網菌の薬剤感受性試験をハマチ・ヒラマサ・マアジ・メジナ・マダイ・イシガキダイについて実施し、耐性または感受性の結果を得た。また投与医薬品の魚体内への残留性が問題となったのでその有無について調査したが、何れも残留は認められなかった。さらに魚病の代表と目される類結節症ならびに連鎖球菌症を対象として感染・発病の条件を養殖場で調査研究した。
 (種苗生産関係)
 かん水養殖も広域的に普及し過剰化の傾向さえ見せているハマチ・マダイなどに代わる有望魚種の開発が期待され、目下の急務とされるようになったところから、特にヒラメ・オコゼ・キジハタ・ガザミ・アカガイ・サザエ・アカウニ・アコヤガイなどの人工的な種苗生産技術の確立に努めた結果、ヒラメ・ガザミ・サザエ・アカウ二・アコヤガイなどについては好成績を得た。なおアユの安定的な種苗生産を図るためのアユ親魚の養成についても研究を行なったが結果は良好であった。

 利用加工試験

 水産物の加工関係に関する試験研究は当初から水産試験場で実施されてきたが、昭和三七年度より利用加工関係の研究体制が一元化され、愛媛県総合化学技術指導所が松山市宮前町に建設されるとともに水産加工研究も同所で行なわれるようになり、水産試験場の事業内容からは削除された。その後工業試験場に改称し、事業も引きつづき行なわれてきたが昭和五六年より工業技術センターが松山市久米窪田町に新設せられ、水産物に関する二次加工を中心とした基礎研究と実用化研究が行なわれている。
 昭和五五年に宇和島市下波に移設された水産試験場では、比較的簡易な水産物の一次加工のうち緊急な開発が望まれる事項の研究が行なわれることとなり、同年より継続して水産物有効利用開発試験にとりくんでいる。この研究課題として最初に選ばれたのが宇和海における小型底曳網の漁獲物のうち利用価値の乏しいジャコの珍味加工であった。このほかイワシなど多獲性赤身魚の練製品への利用試験も行なわれた。その後五六年には未利用深海魚であるアオメエソ・スミクイウオ・ギンザメなどの練製品化や、真空晒しによるサバの練製品化試験が、五七年にはサバなどの冷蔵、凍結した多獲性魚からの練製品化試験や小型底曳網漁業漁獲物中のジャコ類の肉の加工特性試験、さらにアコヤガイの貝柱の貯蔵中の肉変質原因などについての諸試験を行ない、実用化への端ちょが開けたものもあり一応の成果が得られた。

表11-5 明治33年度~昭和10年度施設事業の試験項目

表11-5 明治33年度~昭和10年度施設事業の試験項目


表11-6 明治四二年度~大正二年度講習講話實地指導一覧 1

表11-6 明治四二年度~大正二年度講習講話實地指導一覧 1


表11-6 明治四二年度~大正二年度講習講話實地指導一覧 2

表11-6 明治四二年度~大正二年度講習講話實地指導一覧 2


表11-6 明治四二年度~大正二年度講習講話實地指導一覧 3

表11-6 明治四二年度~大正二年度講習講話實地指導一覧 3


表11-7 愛媛県水産試験場昭和49年度試験項目

表11-7 愛媛県水産試験場昭和49年度試験項目


表11-8 愛媛県水産試験場昭和57年度試験項目

表11-8 愛媛県水産試験場昭和57年度試験項目