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愛媛県史 社会経済2 農林水産(昭和60年3月31日発行)

一 工場廃液とノリ死滅問題


 工場廃液とノリ養殖

 昭和三四年二月四日、西条市玉津漁業協同組合所属のノリ養殖業者が腐敗して流出しているノリを発見したが、これを契機として同月中旬ころまでに同海域で養殖中のノリのほとんどが全滅してしまったのである。
 玉津漁業協同組合(組合長、浅木春雄)はノリ漁場に隣接する住友化学新居浜製造所のアクリルニトリル工場からの廃液によるものと判断し、三月一日これに対する損害補償金六、〇〇〇万円を要求したのであった。
 しかし会社側では試験調査の結果、廃液は無害であり関係はないと発表したので、両者はこの問題をめぐって激しく対立した。
 玉津漁業協同組合はさきに損害賠償を求めていた回答の指定期限である三月二一日に浅木組合長以下組合員約五〇〇名が海陸両面から会社へむしろ旗を押し立ててつめかけていったのである。そして数日間連日の示威運動や、会社の門前での座り込みを行なうなど組合側の抗議はきわめて強行なものがあった。事態を重視した新居浜海上保安署は尾道・今治両保安部より応援を求め、西条・新居浜両警察署でも厳重な警戒にあたるという緊迫した状態がつづいた。
 同日の漁業協同組合と会社側との会談は、県・市が立会して行なわれたが物分かれとなった。
 この事件は全国的な共通問題ということで、国会の農林水産委員会でも取り上げられ大きい政治問題にまで発展し、同月二三日には自由民主党政務調査会水産部会長青山青一 (参議院議員)が来県のうえ事態収拾にあたることとなった。
 この結果、問題の解決を同氏に一任することとし、仲裁案が示され ①専門の学識経験者として中立の立場から広島大学教授松平康雄、会社側から東京大学助教授新崎盛敏、組合側から東京水産大学教授殖田三郎の三名を推薦のうえ、知事から調査委員を委嘱する ②問題処理にあたる調停委員には、愛媛県知事久松定武・愛媛県漁業協同組合連合会長赤松勲・全国海苔貝類漁業協同組合連合会長庄司嘉・四国通商産業局長鏑木康雄・日本化学工業協会技術部長大島竹治・西条市長文野俊一郎・新居浜市長小野かおる(香るへんに奄)の七名があたる ③組合は態勢を元の状態に復する ④工場側はニトリル工場の運転再開には前記七名の意見を尊重して慎重に行なう ⑤調停委員は学識経験者三名の調査結果をまって処理にあたる ⑥当事者双方は調停委員の裁定に協力するということとなった。
 調査の結果は専門家から三者三様の異なる意見が出され一致したものは出なかった。
 ノリの枯死原因は工場廃液とする組合側と、暖冬とする会社側との和解は非常に困難をきわめたが、漸く調査委員会の案として愛媛県から関係組合へ水産振興補助金を交付し、この財源として会社側から五五〇万円を寄付することで解決した。