データベース『えひめの記憶』
愛媛県史 社会経済2 農林水産(昭和60年3月31日発行)
三 昭和後期の浅海養殖①
1 ノリ養殖
ノリ養殖方法の進化
太平洋戦争終結当時のノリ養殖は女竹ひびとスダレひびの二つの方法で行なわれていた。本県独特のスダレひびは、真竹を二尺に切り細かく割ったものをその両端から三寸位内側のところを二か所径四分位のワラ縄で編んだもので、一枚のひびには割竹が一二○本ぐらい使われ長さは一〇間であった。この方法が工夫されたのは明治初年といわれているが、他県には伝播しなかった。本県では昭和二三年より網ひび試験が行なわれ、一応の成功をみたが網の材質は天然繊維のパーム・コイルヤン・棕梠であったため、青ノリ、硅藻の附着が多いので網ひびへの転換は容易に進まなかった。しかし、三二年に水産試験場で化繊網ひびの研究が行なわれると同時に人工採苗技術が導入せられ、翌三三年にはクレモナ樹脂加工が実現したため、三四年にクレモナ網が本格的に採用されるとともにノリ脱水機が普及し始めた。三五年には、ノリ乾燥機が採用され始め翌三六年から全域へ拡がるとともにこのころ予備網、抑制網の保有が普及していった。三七年にはノリすき機、三九年にはノリ摘機の導入があり、四〇年には水産試験場で冷凍網の試験が実施されると同時に三八年から行なわれている沖合漁業でのベタ流し網も本格化した。
このほかノリの品種改良の面では、西条市玉津漁業協同組合の塩崎倉三郎他同漁協の組合員多数の研究が結実し、天然に育ったノリの中から多収性の優良原藻としてオオバアサクサノリを生育することに成功し、四〇年には県下各地に、四五年には全国各地で使用されるに至り「愛媛のオオバアサクサノリ」として全国に知られるとともに増産面で多大の役割を果たすこととなった。
新規ノリ養殖場の開発と生産の推移
太平洋戦争のぼっ発により県下の漁業はあらゆる面にわたって大打撃を被ったが、ノリ養殖業も例外ではなかった。しかしながら、戦後のノリ養殖はノリ価格の高騰もあり、女竹ひびとスダレひびによっていち早く回復し、昭和二三年には約四五〇万枚を生産し、昭和一三年の水準にまで回復した。県下のノリ養殖が伸展に向かったのは昭和二九年ころからであり、この年には新しく西条・新居浜市垣生・今治市桜井地区がノリ養殖を開始し、翌三〇年には伊予三島市の豊岡・野田・一宮・新居浜市の多喜浜・越智郡の波方・南宇和郡の御荘などが養殖に参加した。三一年のノリ養殖実施組合は二二で、燧灘では東は川之江から西は桜井まで陸地沿岸漁協の殆どに及んだほか、松前・松山市・今出地区に加え遠く宇和島も実施するようになった。
越智郡島しょ部のノリ養殖は、昭和三五年に大三島・岡山の二地区で、それぞれ一経営体が固定式網ひびで実施されたのにつづき翌三六年には上浦一・弓削一・岩城生名七・友浦二の新規経営体が養殖に参加するようになり、三八年には島しょ部独特の浮動式養殖が実施されるようになった。
昭和四〇年には、松山市興居島一・堀江二・高浜一・温泉郡中島一のノリ養殖経営体が新しく養殖を開始し、翌四一年には浅海・北条・三津地区でも行なうようになった。
しかしながら、ノリ価格の低迷に加え漁場汚染や漁場そう失等のため、松前・今出地区は四七年を、堀江地区は五一年を最後にノリ養殖を中止したため、五七年現在伊予灘地区では中島町長師・宮野地区八・北条市五六が実施しているにすぎない。
農林統計によって昭和二九年・三五年・四〇年以降五七年までのノリ養殖経営体数、施設数、生産量の推移を表5-5に掲げたが、板ノリの生産量は四一年には一億枚を突破し、四四年には二億八、九六九万枚へと急増した。そして四九年には三億三二七万枚と史上初の三億枚台を記録した。
しかし、ノリ養殖の主産地である西条地区で昭和五〇年一一月から開始された臨海工業団地の埋め立てに伴って、支柱張漁場五〇〇万㎡をそう失したため、その後の沖合のベタ流し漁場の確保にもかかわらず漁場の遠隔化により労働生産性の低下とノリ価格の低迷などもあり、五七年現在県下のノリ養殖業者数は西条地区をはじめ大幅に減少し、最盛時の約二七%となったほか、収獲量においても約四〇%となった。
農林統計による県下のノリ生産額をみると、五三年に四三億七、八二九万円の最高を記録しているが五七年は一三億一、九四八万円にまで減退している。ノリの価格は全国的な作柄に反比例するので、図5-5にみられるようにその変動はきわめて大きいため、生産額は生産量とは全く異なった動向を示している。
図5-1 愛媛県ノリ養殖の変遷 |
表5-4 瀬戸内海におけるノリ養殖状況 |
図5-2 浮流し式ノリ網 |
図5-3 越智郡島しょ部における浮動式ノリひび |
図5-4 昭和41年 ノリ養殖漁協 |
表5-5 愛媛県ノリ養殖業の推移 |
図5-5 農林水産統計漁業生産額に用いたノリ価格 (瀬戸内海)の推移 |