データベース『えひめの記憶』
愛媛県史 社会経済2 農林水産(昭和60年3月31日発行)
第二節 加茂川流域
加茂川林業の生い立ち
加茂川林業の始まりは明らかでない。豊臣秀頼が慶長一五年、徳川家康の勧めにより再建することになった大仏殿造営工事に石鎚山の巨材を運んだことが、前神寺の旧記や徳蔵寺の日記などに見られる。だが、本格的に林業としての経営が始まったのは、西条藩(寛文一〇年西暦一六七〇年襲封)になってからである。西条藩では、「お山方」「山目付」「山廻り」の職制を定めている。
西条藩の宗藩が紀州家で、その林政に従い山林保護育成がなされ、また、民生安定のため、スギ、ヒノキ、クスなどの奨励ばかりでなく、ハゼ、コウゾ、ミツマタ、茶、松茸など特殊林産物には力を入れた。
この点、久万林業が、紀州人井部栄範によって紀州、吉野林業の影響を受けたのと似ている。
江戸時代に育成された森林も、明治になって乱伐されたが、明治二二年には、西条営林署の前身である大保木小林区署が設置され、円山苗圃の経営が行なわれ、造林技術や、伐木造材技術の向上など、加茂川林業の発展に大きな影響を及ぼした。
明治三〇年には、森林法が公布され、国運の伸長とともに木材需要が増加し、林業生産に力を入れるようになり、荒廃した民有林も次第に復旧し、愛媛県の代表的林業地久万林業と相互に影響しあい、林業地を形成し「加茂川林業」と総称されるようになってきた。
加茂川林業地は、人工造林三〇〇年と伝えられる森林もあったように、地味肥沃で、林木の生長は良好であるが、地形急峻で搬出の不便甚しかった。そこで、大正末から神戸土工保護森林組合、加茂森林土工組合、大保木森林土工組合が発足し、林道、森林軌道の開設、製作所の経営など林業発展に力を入れた。
昭和一七年には、西条森林組合が発足し、昭和三四年には、加茂、大保木、西条、大生院の半分が合併し、現在の西条市森林組合が生まれた。
西条市森林組合では、合併の直後、加茂川材集荷のため、木材市場を開設していたが、愛媛県森林組合連合会が、飯岡に木材市場を開設したのに伴い閉鎖した。
また、林業技術と、経営の研究のため、昭和四六年から西条林業研究グループ・大保木林業研究グループ・地蔵原林業研究グループが発足し、加茂川林業振興に大きな役割をはたしてきた。
このように発展してきた加茂川林業は、昭和五五年現在、人工造林率八〇・五%に達しているが、この森林の保育の必要性の増大に対処するため、西条市森林組合では労務班を編成し、植林、除間伐の委託を拡大し、森林資源の、確保増大に努めている。
また、西条市では、森林資源、水資源確保のため、造林補助金、林道事業費の継ぎ足しなど助成を積極的に行ない、林業振興に努めている。
位 置
西条市は、愛媛県の東部に位置し、東は、新居浜市、西は周桑郡に隣接し、南は霊峰石鎚連峰を背に、北は、瀬戸内海燧灘に面する東西一五㎞、南北二二㎞、総面積二二六平方キロメートルの土地である。
南の山岳の主なものを挙げると、西日本最高峰石鎚山(一、九八二m)をはじめ、笹ヶ峰(一、八五九m)寒風山(一、七六三m)瓶ヶ森(一、八九六m)があり、これらの連峰は、石鎚国定公園として秀麗な景観をなしている。
この連峰を源とする加茂川が市の中央部を南北に貫通し、その西部に中山川、東部に渦井川が流れている。
地域のあらまし
山岳地帯の地質は、三波川帯に属する結晶片岩類であり、山麓丘陵地帯を東西に中央構造線が走っている。
中央構造線の南は、黒色片岩、または、緑色片岩の肥沃な林地で、スギ、ヒノキの生育に適している。
中央構造線以北は、その大部分が和泉砂岩層で構成され、一部せき悪地もあり、地味不良で、ヒノキ、マツが生育している。
気温は、年平均一七・二度Cで、雨量は山岳地帯で二、〇〇〇㎜に達し、樹木の成育に適しているが、北部は、瀬戸内海気候で、比較的雨量も少ない。
加茂川林業のあらまし
森林面積は、一万六、九五三haで、地域全体の七五%を占めている。そのうち、民有林が一万一、四二九haで、八〇%が人工林であり、戦後植栽された森林が多く、三~六令級の林分が六九%を占め、従って、除間伐等の保有を必要とする森林が多い。森林蓄積についてみると、総蓄積二〇八万六、〇〇〇立法メートル、内民有林総蓄積一六〇万七、〇〇〇立法メートルである。
林家戸数は二、三三八戸で、一戸当たり平均三haとなり、ほとんどが兼業農家であり、三〇ha以上の森林所有者は、わずか一・〇%である。しかし、西条市の場合は地域外で森林を所有している林家が非常に多く、地域外の所有林を含めると、三〇ha以上の林家が四二戸になり、倍増する。また、地区外所有者も、かつて山間部にいた林家が昭和四〇年代に近隣の市や町に転出した者が多いので、地元所有者と変わらず通勤林業経営をしている者が多い。
林業就労者は、過疎化に伴い、次第に減少しているが、団地共同森林施業計画の推進に伴い森林組合労務班が拡大強化され、約一〇〇名に達し、造林、保育作業に従事している。
加茂川林業と森林施業団地
加茂川林業の特色は、一部の里山を除き、植栽可能な所は、ほぼ人工造林がなされていることと、全地域に森林施業団地が設定されていることである。
地域林業の振興を図るため、昭和五〇年から森林組合が中心となり、森林施業団地共同化事業に取り組み、昭和五四年度には一九団地の全民有林に団地計画を樹立した。この施業団地には、山林所有者の互選により、五名以上の団地運営委員を選出し、団地の取りまとめ、森林組合との連絡にあたるとともに、造林、保育、林道、作業路の開設などの事業計画を取りまとめ、森林組合に持ちより全体計画を樹立する。
この団地運営委員と森林組合長、専務、担当職員で運営委員会を構成し、年間二回以上運営委員会を開催して、(一)団地内の事業計画の検討 (二)資金の調達計画、農林漁業金融公庫資金の借入額の決定 (三)労賃、労務計画、労務配分、(四)施業委託山林の決定等きめ細かく協議し、事業を実施している。
1 丸野総合施業団地 良質材生産壬デル団地として、良質材生産の為の施業及び林道の開設。
2 吉居総合施業団地 間伐生産モデル団地とし、選木、間伐木の搬出のための路網調査、作業道の開設と間伐の推進。
3 荒川総合施業団地 森林組合の受託事業推進のモデル団地とし、造林から素材生産まで一貫して、森林組合労務班が
事業を実施。
4 蔭地総合施業団地 高密路網の整備を図る団地とし、林道を開設し、昭和五八年度までに、林道密度二六・三m/ha昭
和六五年度には四〇m/haにし、林業経営の合理化を推進。
このモデル総合施業団地の事業を推進することによって、地域にその波及効果をあげ、地域林業の振興をはかろうとしている。
事業の推進
加茂川林業地域では、国や県の各種の施業を活用して、地域林業の振興をはかっているが、主なものをあげると次のようなものがある。
1 中核林事振興地域育林対策事業
昭和五四年度に計画を樹立し、地域林業振興のマスタープランとして、計画を推進する。
2 第二次林業構造改善事業
第一次林構(昭和四六年~昭和四八年)に引き続き、昭和五四年度に計画を樹立し、高度集約団地協業事業、林道網の整備、林業センターの設置の三つの事業を基本として、組合協業の推進と林業後継者問題にとり組み、地域林業の振興を図ろうとしている。特に、特認事業として、林業センターを作り、労務班員が背広着用で朝夕通勤し林業労働に従事できるようにし、若い林業労働者を確保養成しようとしている。
3 森林組合総合整備事業
加茂、丸野地区が昭和五四年度に森林総合整備事業の指定を受け、造林、保育事業を森林組合労務班が受託で、表2-6のように実施している。
4 森林施業団地共同化事業
森林総合整備事業の指定を受けていない残りの地区については、森林施業団地共同化事業により森林施業計画を樹立し、造林保育を組合労務班が主力になって表2-7のように推進している。
林道と治山事業
(1)林道網の整備
ア 現況
昭和四〇年代に入って機械化工法が一般化するにつれて林道への関心が高まり、団共計画により、急速に整備が進められつつある。昭和五四年度末現在で、森林組合が管理している林道(自動車道)は表2-8のとおりである。
イ 計画
林道網整備全体計画(昭和五三年―六七年)及び、地域森林計画の開設計画(昭和五五~六年)は表2ー9のとおりであるが、これの推進により「通勤林業」の確立を図ろうとしている。
(2)治山事業
この地域は、森林が非常に急峻である関係から崩壊地が多く、古くから谷止工等の治山事業が施工されてきた。昭和五一年九月八日から一三日に至る間の台風一七号は、藤之石地区に於て連続降雨量一、七四〇㎜、最大二四時間雨量六九二㎜、最大一時間雨量六三㎜という当地方にとって未曽有の降雨をもたらした。その結果、三〇か所に及ぶ山腹崩壊と、流失荒廃が発生し、被害総額は八億三、六〇〇万円に達した。この復旧状況は表2―10のとおりである。
加茂川林業の振興の方法
この地域は、森林施業団地の計画樹立と、その推進により、加茂川林業を振興してきたが、今後は、次に重点を置いて林業の振興を図る。
1 西条市、森林組合、林家が一体となり、団地共同森林施業計画の推進を図る。
2 生産目標の確立を図り、それに対応した育林技術の体系化を図る。
3 林道、作業道等の生産基盤の整備を図るとともに、林業経営の合理化、特に、間伐を推進する。
4 林業後継者の育成と通勤林業の確立を図るとともに、森林組合労務班の後継者の確保と資質、技術の向上を図る。
図2-1 加茂川林業の施業団地の位置 |
表2-4 西条市森林組合の現況 |
表2-5 西条市の林業の実態 |
表2-6 造林・保育事業(指定地区) |
表2-7 造林・保育事業(非指定区) |
表2-8 森林組合が管理している林道 |
表2-9 林道網整備計画 |
表2-10 最近5カ年間の治山工事実施状況 |