一　需給構造の変化と共販組織の大型化

　需要の変化

　昭和三〇年以降、都市の消費水準は戦前水準を上回り、食生活も洋風化、高度化が進み、肉卵乳、果実ならびにそれら加工品の消費増加が目だつようになる。つまり、戦前型の食生活パターンから戦後型のパターンへ移行したのである。それにともない、三〇～三五年のミカン消費量は、家計調査によると、全都市で年間一人当たり四kgから七kgへ、東京都で五㎏から八kgへと増加し、この時期のミカン需要はきわめて旺盛だったことがうかがえる。三五年以降、高度経済成長にもとづく所得水準、消費水準の継続的な上昇と平準化、さらにそれを基盤とする「大量消費時代」への移行を背景に、小売機構も次第に変化し、スーパーマーケットなど新しい小売り形態が伸展してくる。食生活においても、食品の規格化（標準化）、高級化さらに多様化といった動きが、同時に発生してくる。ミカンの消費は、三六年以降やや停滞していたが、後半、生産量の増加と価格の安定で急増し、四〇年には全都市で一〇㎏、東京都で一一㎏に達した。

　生産量の増大

　愛媛ミカンが、戦時中の減反と荒廃から立ち直り、戦前の最高水準に回復したのは昭和三〇年前後であるが、その後の国民所得水準の上昇と食生活構造の変化にともなうミカン需要の増大に支えられて、各地で開園新植が進められ、三五年には、すでに栽培面積で昭和二五～二六年当時の二倍、生産量で三倍の水準に達していた。三六年以降、農業構造改善事業などによる大規模な樹園地造成が関係しているが、全県的に新植ブームが展開し、その結果、表６－６に示したように、四〇年の栽培面積は一万五、〇〇〇haを超え、二五～二六年平均の三・七倍、生産量も二〇万ｔを超え、同じく五・五倍に増大する。
　さらに四三年には、栽培面積で一万九、〇〇〇ha（二五～二六年平均の四・八倍）、生産量で実に三八万ｔ（同じく九・一倍）という驚異的な増加を示すことになるが、この四三年という年は、愛媛ミカンが、これまで首位の静岡県を抜いて、生産量で全国一の座を確保した記録すべき年であり、また前述の通り、ミカン過剰化にともなう最初の価格暴落を経験した年でもあった。

　集出荷施設の近代化

　三五～三六年は、またミカンの出荷販売面で画期的な年であった。まず第一に、これまで主産県ごとに定められていたミカンの規格が、全国共通規格に統一されたこと（ただし全国的に実施されたのは三七～三八年）。第二に、これまで木箱の手詰めであったものが、ダンボールのバラ詰めに変わったこと。以上の二点は、選果機の近代化（機械化、自動化など）を著しく促進することとなり、大型自動選果荷造り施設の開発される端緒となった。たまたま三七年から開始された第一次構造改善事業で、この大型選果荷造り施設が、流通近代化施設としてミカン産地に導入されたことはいうまでもない（第一節参照）。

　農協合併

　昭和三六年に公布された「農協合併助成法」は、その後四度の期限延長を行い、一七年間にわたって農協合併を行政的に促進してきた。このねらいは、零細規模の農協を合併して大規模農協を作り、経営基盤の安定、事業規模の拡大、新事業分野への進出をはかろうとするものであった。その結果、愛媛県の総合農協は、三六年の二九三組合から、四〇年には一九八組合、四五年には一一九組合、五〇年には一〇二組合と激減した。この合併にともない、ある地域では、総合農協と専門農協、あるいは出荷組合、園芸組合との合併問題が起こり、組織的なトラブルが発生している。

　共販組織の大型化

　このように、三六年以降、農業構造改善事業などによる大型選果場の新設を契機に、零細な部落共選が次々に統合され、マーク統一と共販組織の拡大がはかられる。もちろんこの背景には、前述した果実需給構造の変化、商品化の発展と選果機の技術進歩、農協合併などが関係しているが、選果場の新設には多額の投資が必要であり、それを効率的に運営するには適正な処理量がなければならない。大型選果場の新設を契機に共販規模が拡大してきた経済的背景として、この選果場の採算性（適正規模）の問題があったことに留意する必要がある。ともかく、三六～四一年の期間に、一郡または数郡を集荷圏とする二～三万ｔ処理の大型選果場が各地に新設された結果、ミカンの集出荷および流通は、画期的な変ぼうをとげることになる。選果場近代化の直接のねらいは、いうまでもなく選果荷造り作業の合理化と経費の節減、大量継続出荷による市場性の強化と販売価格の向上にあるが、共販組織に種々の影響を与えた。そこで以下、愛媛県における昭和三〇年代後半から四○年代前半にかけての選果場近代化の経緯を明らかにしておく。