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愛媛県史 社会経済1 農林水産(昭和61年1月31日発行)

二 食糧緊急増産対策


 食糧増産興農運動

 「食糧増産確保臨時措置法」が昭和二三年七月二〇日公布施行された。この法律の概要は、(1)農林大臣・知事・市町村長は、それぞれ農業計画を定めて指示する。(2)農業計画に定められた数量を売り渡し義務数量とする。(3)農業計画の策定、指示の議決機関として、都道府県に農業調整委員会を設置する。といった内容で、農業生産と供出を連けいさせ供出制度の根本的な改正がはかられた。
 二四年になると、日本経済もかなり復興し、さらにインフレの収束のほか、経済九原則の指令(二三年一二月)ドッジラインの展開(二四年二月)、シャウプ税制改革の勧告などの施策がつぎつぎと打ち出された。
 このような背景の中で、昭和二五年七月「食糧増産興農運動要綱」が閣議決定された。これを受けて、本県でも「愛媛県食糧増産興農運動要綱」を作り強力な運動が展開されることとなった。
 ちなみに二五年の本県の食糧需給状況(計画)は表6-17のとおりであった。つまり需要量合計一二万一、三一三t(米換算トン)に対して、持越米二、一六五t、二五年産米の早食い二、三一〇tのほか、二四、五年産麦・甘藷・いも澱粉・雑穀のほか、県外からの移入一万六、〇〇〇tでようやく需給バランスを保っている。
 このころになると、麦・雑穀・藷類などの配給辞退もみられ、昭和二四年産藷・雑穀などから統制が撤廃された。また、二六年米麦からは事前割当制が廃止され、代わって農業計画に基づいて生産数量を指示し、その生産実績に対して供出割り当てを決定することとなった。
 この指示目標については、知事・市町村長は各種の施策を講じて増産に努力しなければならないこととなっていた。
 このように、食糧事情は順次改善されてきたが、二六年五月、朝鮮戦争が始まって食糧事情はまた新たな段階に入った。食糧の国内自給度の向上と農家経済の安定のためにも、主要食糧農産物の増産の重要性はますます強まってきた。
 さきの「愛媛県食糧増産興農運動要綱」を参考に示すこととする。これによると、国内自給度の急速な向上をはかるため、さしあたり主要食糧の生産量を一割増産することを目標としている。そのため土地改良、災害防除、農業技術の改良普及、優良種苗の普及、その他緊急増産に関する諸施策を総合的に推進することとしている。
 このあと、昭和二七年政府は「食糧増産五か年計画」を発表した。

       愛媛県食糧増産興農運動要綱

  第一 目  的
     食糧の国内自給度の急速な向上を図るとともに、農家経済の安定を期することを目的とする。
  第二 生産目標
     差し当たり主要食糧農産物の生産量を一割増産することを目標とし、尚、総合的食糧対策の一環として畜産食糧
    等の増産をも併せ行い、水産食糧の増産は別途に行うものとする。
  第三 運動方針
     食糧供出事前割当制度を廃止するとともに、農家の自発的かつ合理的な増産活動を促進するため、市町村毎に主
    要食糧を中心とする総合的農業計画を樹立させるものとし、その生産目標の達成およびこれに必要な諸条件の実
    現について政府の助成と県の指導を集中するものとする。
     右総合計画樹立実行に当たっては、農業調整委員会、農業改良委員会、農地委員会等の自主的な活動と関係官公
    庁、農業協同組合、農業共済組合その他農業関係団体、篤農家等の積極的な協力をうながすものとする。
  第四 増産対策
     増産対策については、夫々の地方の最も必要と認める事項につき施策の重点を指向するものとする。而して増産
    上特に留意すべきものは次の事項とする。

    1 土地改良及び灌排水施設の整備拡充
    2 耕地の造成拡張
    3 地力の維持増進及び低位生産地土壌の改良
    4 耕地等災害の復旧及び防除
    5 耕地の耕土利用
    6 優良種苗の普及
    7 病害虫の徹底防除
    8 栽培技術の向上普及
    9 畜力及び機械力の高度利用
   10 家畜及び畜産物の増産

 さらに、この食糧増産興農運動を受けて、米・麦の増産運動要綱を定め具体的対策を示している。終戦による混乱期を漸く脱して、総合的・体系的に立てられた増産施策として参考に掲示しておく。

       昭和二六年麦類増産運動要綱
  第一 生産目標
     昭和二六年産麦類の生産目標は六九万三千石とし、食糧増産興農運動として農家経営改善上合理的な作付計画
    を基調とし之を達成するものとする。
  第二 増産対策
     個々の農家に対し食糧増産興農運動の趣旨を徹底せしめ、自発的協力を促し麦類増産必行事項の実践に努力せ
    しむると共に、夫々の地方の最も必要と認める増産事項に対し施策の重点を指向するものとする。而して増産上特
    に留意すべき点は次の如きものとする。
    1 地力の維持増進並びに低位生産地土壌の改良(堆厩肥の増施、酸性土壌、燐欠土壌の矯正)
    2 耕地の高度利用(単作地帯に於ける裏作麦の奨励、播代歩合の確保)
    3 優良品種の選択
    4 選種及び種子消毒の励行
    5 適期作業の実施、適期適量播種、適期刈取の励行
    6 病害虫の防除(特に雪腐病、白渋病、銹病、赤かび病の防除)
    7 肥料の合理的施用(燐酸及び加里質肥料の基肥施用、窒素肥料の分施)
  第三 普及指導
     中央・地方の弘報機関並びに農業改良普及組織を活用すると共に、農業協同組合、農業研究会、篤農家等の協力
    により、これが趣旨の徹底並びに必行事項の普及指導の徹底をはかる。
  第四 麦作多収穫奨励
     麦作の増産意欲を昂揚し農業技術体系をつくり、以て食糧増産並びに農家経済の安定を図る一環として麦作県
    一を表彰する麦多収穫競作会を前年に引続き開催する。

       昭和二六年産米増産運動要綱

  第一 生産目標
     食糧増産興農運動の一還として、昭和二六年産米の生産目標八九万一千九九八石の達成を期する。
  第二 増産対策
     農家に対し食糧増産興農運動の趣旨を徹底せしめ、自発的協力を促し改善必行事項の実践に努力せしめると共
    に、夫々の地方の最も必要と認める増産事項に対し施策の重点を指向するものとする。而して増産上特に留意すべ
    き点は次の如きものとする。
   1 土地改良及び灌排水施設の整備拡充
   2 開墾及び干拓工事の促進
   3 入植営農施設の整備
   4 地力の維持増進(堆厩肥及び緑肥の改良増産)
   5 優良品種の普及更新
   6 選種及び種子消毒の励行
   7 健苗の育成(薄播、温床苗代、保温折衷苗代の実施、苗腐病の防除)
   8 水稲の秋落防止(硫酸を含まない肥料及び固型肥料の施用、含鉄物の施用又は赤土、泥土等の客土、品種及び栽
   培   法の適正化)
   9 適期田植の励行、除草の徹底
  10 肥料の合理的施用(肥料三要素の合理的組合せ施用、窒素肥料の深肥及び合理的分施、緑肥の適量施用)
  11 病害虫の防除(早期発見、共同防除)
   (イ) 稲熱病の防除(耐病品種の選定、窒素肥料の適正施用、早期薬剤撒布)
   (ロ) 螟虫の防除(二化螟虫は誘蛾灯の活用、被害茎の摘採。三化螟虫は播種期及び移植期の統制、苗代のDDT撒布)
   (ハ) うんかの適期防除
   (二) その他病害虫の防除(特に風水害後の早期薬剤撒布)
  第三 普及指導
     中央・地方の弘報機関並びに農業改良普及組織を活用すると共に、農業協同組合、農事研究会、その他農業団体
    及び篤農家の協力により、これが趣旨の徹底並びに必行事項の普及指導の徹底を図る。
  第四 米作多収穫奨励
     米作の増産意欲を昂揚し、農業技術体系をつくり以て食糧増産並びに農家経済の安定を図る一環として、米作日
    本一を表彰する米多収穫競作会に関連し、愛媛県多収穫競作会を前年に引続き開催する。

 以上の要綱に基づいて諸施策が実施されたが、とくに国費及び県費助成によって推進された事項は次のとおりであった。

  麦類増産施策
    1 酸性土壌の矯正のために使用する石灰購入運送の補助
    2 種子消毒を全面的に行いこれに要する薬剤購入費の補助
    3 病害虫頻発地に対する予防的薬剤購入費補助
    4 原種圃設置費補助、三か年更新を目標に優良種子を配付する。

  米増産施策
    1 土地改良耕地拡張などに対する経費補助、土地改良のために行う用排水工事及び開拓、干拓などに対
    する経費補助
    2 優良品種の普及更新に対する原採種圃の設置補助、三か年更新を目標に優良種子を配付する。
    3 種子消毒を全面的に行いこれに要する薬剤費の補助
    4 健苗の育成 山間地帯・寒冷地又は早植地帯における健苗育成のため、保温折衷苗代を奨励し保温紙
    購入費に対し補助金を交付する。
    5 病害虫の防除 病害虫頻発地帯における予防的薬剤撒布に対する薬剤購入費の補助を行う一方、昭和
    二五年より県に農作物防疫班を作りその万全を期している。

 農地開発の推進

 昭和二〇年一一月、「緊急開拓事業実施要領」が閣議決定され、開墾一五五万ha入植戸数一〇○万戸を目標で推進されていた。本県では開墾適地の取得一万ha余入植、二、五〇〇戸、増反三万戸、これによる収穫高一〇万石(一万五、〇〇〇t)の計画を立ててその推進をはかった。その結果二七年末実績で買収した面積九、九六七ha、入植戸数一、八〇六戸、増反戸数一万七、三四八戸となった。これらの入植、増反者による開墾面積は四千ha、総生産額は米換算で五万五、〇〇〇石(八、二五〇t)に達し、計画目標のそれぞれ四〇・一%、五五%の達成をみた。
 ついで二八年第一次「愛媛県農業振興計画」を樹立し、三二年の目標年次までに、六、・三八五haの開拓可能地買収面積のうち、二、五九三haの開拓と、国・県営・代行を含めた三六四・二haの干拓計画を立てた。この成果は開拓、一、八一一ha、増反三、三六〇ha、計五、一七一haとなり、米換算生産量は、一万二、五四三tと推定され、目標一万五、〇〇〇tに対して八三・六%を達成した。

 土地改良事業の推進

 昭和二四年八月、土地改良法が施行になった。その目的は農地の改良・開発・保全および集団化を行い、食糧その他農産物の生産力の向上をはかり、ひいては農業経営の合理化を実現することである。
 昭和二四年の県調査によれば、水田のうち用水不足地一万四、九二〇ha、排水不良地八、二一一ha、冷水灌漑地一、一六七ha、老朽化水田七、一三五ha、塩害地など一、〇九九ha、計三万二、五三二haであった。ただしこれは重複しているので要土地改良面積は、二万五、一三四haである。これは、水田総面積三万九、六七五haの実に六三%を占めていた。また、要土地改良面積のうち東予地区が一万一、三二八haで四五・一%、中予地区が九、〇三三haで三五・九%を占めていた。
 昭和二〇年から昭和三二年までに実施した土地改良事業の実績は表6-18のとおりである。総事業費で(昭三二物価に換算)四五億六千七百万円余である。これを土地改良の種類別比率で見たのが表6-19である。かんがい排水が四八・六%で約2分の1を占め、農道の新設、改修を加えると七〇%近くも占めている。この二種の事業が従来から土地改良の主体をなしていたが、土壌侵蝕防止とさく道新設は急傾斜地帯の農道振興上急速に増加したものである。
 また、戦後の土地改良事業は昭和二四年に公布された「土地改良法」により、国営・県営・団体営などがすべて法的根拠を持って推進されることとなった。本県では昭和二五年から県営急傾斜保全事業が、翌年から県単土地改良事業が開始されるとともに、県営かんがい排水事業が強化された。
 しかし、土地改良事業の飛躍的増加を見るようになったのは、昭和二七年からのことである。それは積雪寒冷地帯農業振興臨時措置法に代表される、特殊地帯農業振興のための特殊立法がつぎつぎ成立したことと、農林漁業金融公庫法の成立によって、長期低利の資金が土地改良事業に利用できるようになったことである。これら一連の施策によって土地改良事業が促進され、食糧増産に大きく寄与したのである。

 特殊立法の整備

 前述したように、この時期は食糧増産体制を充実整備するため、つぎつぎと法律の制定が行われ各種の制度が整備された。                 、、

 昭和二四年 土地改良法公布
 昭和二五年 国土総合開発法公布
          農林水産業施設災害復旧事業費国庫補助の暫定措置に関する法律公布
 昭和二六年 国土調査法公布
          積雪寒冷地帯農業振興臨時措置法公布
 昭和二七年 急傾斜地帯農業振興臨時措置法公布
          特殊土壌地帯災害防除及び振興臨時措置法公布
 昭和二八年 湿田単作地帯農業改良促進法公布
          耕土培養法公布
          農村電気導入法公布
          農林漁業金融公庫法公布
          農林省、食糧増産五か年計画発表
          農地法公布
          海岸砂地地帯農業改良促進法公布
          畑地農業改良促進法公布
          農業機械化法公布
          有畜農家創設特別措置法公布
 昭和二九年 肥料二法公布
          酪農振興法公布
 昭和三〇年 農地開発機械公団公布
 昭和三二年 開拓営農振興臨時措置法公布

 土地改良事業には多額の資金を必要とし、またその効果の発生までには相当な期間が必要である、しかもこれらの施設は公共的性格が非常に強いので、国・県・市町村などの投資に期待しなければならない。前記の法律公布の経緯を見れば、戦後の食糧確保のためにあらゆる方法で公共投資などの道が開かれたことを示している。
 この中で特筆すべきことは、特殊地帯農業振興のための臨時措置法の公布である。いわゆる積寒法が二四年に公布されたが、主として東北、北陸地帯を対象にした総合的農業振興法であった。そして翌年には本県が永年にわたって努力していた急傾法の公布であった。水田地帯に対しては、これまでもかなりの公共投資が行われていた。しかし急傾斜地帯の畑作に対し公共投資の道が開かれた意義は非常に大きかった。ついで特土地帯、湿単地帯、海岸砂地、畑地と続くのである。当初こそ特殊地帯を対象としていたが最終的には全国の地域が何等かの法律の適用を受ける形になっていた。当時は、これらの法律に基づいた計画で食糧増産に寄与するものでなければ国庫補助を受けることは不可能であったし、逆にいえばそれにかなう計画であれば思い切った国庫補助を受けることができた。
 一連の特殊地帯農業振興法のほかにも、耕土培養・電気導入・農業機械化・肥料二法・有畜農家創設・酪農振興法など食糧増産を軸とした農業再興のための制度が着々と整備された。






表6-17 食糧需給計画

表6-17 食糧需給計画


表6-18 土地改良事業費の推移

表6-18 土地改良事業費の推移


表6-19 土地改良種類別比率

表6-19 土地改良種類別比率