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愛媛県史 社会経済1 農林水産(昭和61年1月31日発行)

二 農産物の集荷と配給統制


 米穀の集荷と配給の統制

 昭和一四年の初頭から米穀の需給状況が悪化し、その対策として同年四月に米穀配給統制令(昭和一四年四月一二日法律第八一号)が施行され、必要に応じて米穀の買入、売渡しをする者に対して米の配給統制に関して政府が命令することが出来るようになった。
 昭和一四年の本県は稀有の大旱魃で、県内生産米の実収高は前年に比較して約一割減の八五万八、〇〇〇石の大減収となり、端境期から生産者の売惜しみ、仲買人の大量闇取引(検挙者続出)、県外移出米の増加などにより、一五米穀年度は節米を極度に実行しても米の消費量は一〇四万五、〇〇〇石が予想され、差引一八万余石が不足する実態であった。
 政府は米穀統制の準備調査として、米穀統制法(昭和八年三月二九日法律第二四号)と前記の配給統制令の両者を発動して昭和一四年一一月に、米穀の現在状況調査を全府県に命じた。本県は翌一五年五月五日現在で関係者(生産者、地主、米穀取扱業者、産業組合、金融業者、大口消費者など)について一斉調査を実施するとともに、米穀配給の円滑化を図るため、第一線の指導者を総動員して県下各地で米穀事情懇談会を開催し、自家消費の節米と販売量の増加促進の協力を求めた。
 米穀事情がさらに深刻となった昭和一五年八月に、政府は米の供給量を確保するため臨時米穀配給統制規則(八月二〇日公布九月一〇日施行)を公布し、米の生産者と地主が米を販売する場合は、すべて市町村農会の出荷統制に従わせる措置を講じた。しかしこの規則では、原則として出荷は生産者、地主の自由にゆだねられていたため、続いて米穀管理規則(昭和一五年一〇月二四日公布同一一月一一日施行)を定めて徹底した米の国家管理制度を布き、以後、生産者、地主の保有する米は、自家用米を除く全量が国家管理の下に置かれることになった。
 米の消費県である本県は、この国策に先行し集荷の徹底と配給の適正化を図るため、昭和一五年五月一〇日に県訓令第八号をもって愛媛県米穀集荷配給統制要綱(資料編社会経済上五七頁)を制定したが、この要綱により集荷は産業組合に一元化し、配給は県内産米のほか政府払下米その他県外米のすべてを県の指示で産業組合と商業組合の両者が行うことになった。
 またこの統制要綱により、市町村長は管内の米穀の実態を考慮して年間の需給計画を立て、県はこの市町村の計画を基礎にして市町村別の供出割当量を決定し、割当量の出荷は命令により強制的に行われた。
 市町村の需給計画の樹立、産業組合の集荷については次の注意事項が指示された。

        注意事項
  一、市町村の需給計画は、混食(麦三割)、代用食の徹底的実行により、極力節米(四割)の実践に努め、米穀消費の減
   少を圖る
  二、個人の任意取引を放任すると、闇取引を生ずる虞があるので、市町村長は警察署長(駐在警察官)と連絡して励行
   に努める
  三、産業組合の集荷については、市町村長の指示に従い、農会、部落団体等の協力と、駐在警察官の援助を求める
  四、部落団体は部落内の販売米の出荷励行について申合を行い、産業組合集荷の徹底を期する
  五、市町村長、警察署長は、管内における米穀事情につき常に周到な注意を払い、その状況につき県と十分な連絡を圖
   る

 麦類の集荷と配給の統制

 節米の実行、奨励には主要混食資料である麦類の確保が必要であり、昭和一四年一一月から県は麦類の県外移出を統制して許可制としたが、食糧の需給状況が悪化した昭和一五年六月に、米穀需給調整の補強策として県内産裸麦と小麦の集荷、配給を統制するため愛媛県麦類集荷配給統制要綱(資料編社会経済上五八頁)を公布した。この統制で麦の生産者、麦類を小作料として受け取る地主は、自家消費量を除く剰余麦の全量を産業組合に出荷し、産業組合が集荷した麦は県の指示に基づき県購連を通じて県内の配給に充て、剰余がある場合は政府への供出、県外移出とすることに定められた。県内に配給する麦は市町村長に割当てられ、市町村長の指示に従い商業組合または産業組合を経て消費者に配給された。
 政府への供出量は国から府県別に割当てられた。当初の割当量は自家消費を除く剰余の範囲であったが、食糧の窮迫とともに次第に増加して、供出量の確保が困難となり強制買上げ(麦類配給規則第三条発動)が行われるようになった。と同時に販売の統制も強化され、昭和一六年六月に麦類配給統制規則施行細則(資料編社会経済上六九頁)が公布され、(一)市町村農会は生産者または地主の保有する麦について販売見込高を調査して麦類台帳を備え出荷計画を知事に報告する (二)販売業者(販売組合または農業倉庫業者)は取扱数量を市町村農会に通知し、市町村農会はさらにこれを知事に報告する (三)販売組合連合会は麦類を買受けまたは販売の委託を受けた数量を知事に報告する、ことが義務づけられた。
 この年から販売される麦は、全量政府買上げとなり、集荷は農会、販売は産業組合に一元化された。

 玉蜀黍の配給統制

 昭和一五年一一月に愛媛県玉蜀黍配給統制規則(資料編社会経済上六二頁)が定められ、玉蜀黍の配給が県農会によって統制されることになった。統制の内容は次のようなものであった。(一)市町村農会が、区域内で生産される玉蜀黍の配給計画を立て県農会に報告する (二)県農会は玉蜀黍の配給計画(産地、生産数量、用途別消費量)を策定して知事の承認をうける (三)県農会は玉蜀黍の配給統制上、必要を認めたときは郡市町村農会に対して配給の統制に関する指図をする (四)生産者あるいは販売の委託を受けた者が玉蜀黍の販売をする時は市町村農会の斡旋による (五)玉蜀黍を県外に販売する時は生産地、移出先、数量、時期、積出地、用途、移出を必要とする事由について県農会の承認をうける (六)知事が玉蜀黍の配給調整上、必要を認めた時は系統農会、玉蜀黍生産者その他の関係者に配給に関する命令をする
 昭和一七年の四月以降、玉蜀黍の需給関係は悪化の一途をたどり、甘藷とともに県外移出が極度に制限された。

 雑穀の配給統制

 米麦、玉蜀黍に続き愛媛県雑穀配給統制規則(資料編社会経済上六七頁)の制定により、昭和一六年以降、豆類ほか雑穀類の出荷も市町村農会の統制下におかれることになった。統制は次のように行われた。
 (一)雑穀の生産者は自家用消費者に販売する場合を除き、産業組合または知事の指定する団体以外の者には販売の委託、売渡しをすることが出来ない (二)販売の委託をうけた産業組合は県購連(保証責任愛媛県購買販売利用組合連合会)に再委託する (三)販売の委託をうけた県購連は、愛媛県雑穀商業組合(雑穀配給機関)に売渡す (四)県購連、雑穀配給機関、指定団体は毎月末までに雑穀の受入数量、販売数量、買受数量、配給数量を知事に報告する (五)雑穀配給機関は配給計画を定め知事の承認をうけ、配給終了後は知事に報告する (六)雑穀配給機関は配給計画を審議する雑穀配給委員会を設置する (七)県購連、産業組合、雑穀配給機関、指定団体は、販売の委託をうけた雑穀の種類、数量、価格、年月日、買入先、販売委託者の氏名住所、販売した雑穀の種類、数量、価格、年月日、売渡先の住所氏名を記入した帳簿を備える (八)知事は雑穀統制上、必要な命令をし、また官吏により事務所、営業所の臨検、検査をする (九)命令違反者は業務を停止する

 甘藷の配給・移出統制

 戦争の進展とともに強化された農産物の配給統制で最初の対象となった作物は原料甘藷であった。昭和一四年八月に公布の原料甘藷配給統制規則(昭和一四年八月五日農林省令第三八号)により、同年一〇月に愛媛県原料甘藷配給統制規程(資料編社会経済上五六頁)が制定され、県内で生産する原料甘藷の買入れは、全国酒精原料株式会社、愛媛県澱粉工業組合、澱粉工業組合連合会、愛媛県甘藷製粉工業組合と知事の許可をえたものに限られ、しかも愛媛県農産物配給販売斡旋部の斡旋によらなければ買入れが出来ないことになり、数量は愛媛県経済更生委員会甘藷配給統制部(昭和一四年一〇月一八日新設)の決議を経て知事が定めた割当証票(配給切符)により配給されることになった。
 また原料甘藷の需給調整上、知事が必要と認めたときは売渡の時期・価格・売渡の方法・原料甘藷の種類・数量について必要な命令を発し、また原料甘藷の買入・使用・斡旋をする者に対し買入・売渡し・使用の状況につき報告を徴することになり、原料甘藷の流通は完全な統制下におかれることになった。
 この原料甘藷の配給統制実施から一年余を経過した昭和一五年一〇月に愛媛県甘藷配給統制規則(資料編社会経済上六〇頁)が制定され (一)無水アルコール原料甘藷として供出の場合 (二)前記の愛媛県原料甘藷配給統制規程による場合 (三)特別の事由により知事が許可した場合を除き、一般の生甘藷・切干甘藷の配給も統制されることになった。
 配給統制は県農会が主体となり、先ず市町村農会において甘藷の需給計画を立て、県農会はこの計画と愛媛県甘藷配給統制部の決定に基づき用途別配給数量を割当て、市町村農会はこれを市町村経済委員会の審議を経て部落団体に割当て、用途別需給の調整をはかった。
 県農会は甘藷の配給統制上、必要ある時は市町村農会の需給計画に対して修正を命じ、また生産者が甘藷を販売する時は生甘藷一〇貫未満の場合を除き市町村農会長の承認を必要とし、県農会はさらにその販売先・販売数量・販売時期・その他配給の統制に必要な指図をした。
 なお甘藷の需給調整上、必要が生じた場合、知事は県農会・郡農会・市町村農会・生産者に対して配給の禁止、制限その他の必要な事項を命令し、違反者に対しては拘留または科料の規程を適用した。
 その後、生甘藷・切干甘藷の配給統制に国策となり、昭和二六年八月に藷類配給統制規則(昭和一六年八月二〇日農林省令第六七号)が制定され、これに基づき同年一〇月に愛媛県藷類配給統制規則施行細則(資料編社会経済上七〇頁)が公布され、同時に愛媛県甘藷配給統制規則と後述の甘藷移出統制規則は廃止された。
 新たに制定された藷類配給統制細則により、藷類の販売には知事の許可を要し、消費者・藷類の小売業者は知事の指定する指定配給者以外の者から藷類を買受けることが禁じられた。また知事は藷順の配給統制上、必要と認めた時は指定配給業者に対して配給先・配給数量・配給時期・配給方法・その他配給に関し必要な事項を命ずることが出来ることになった。
 前記の原料甘藷の配給統制の実施に続き同年一二月に愛媛県甘藷移出統制規則(昭和一四年一二月一日愛媛県令第七〇号)が公布され、県内生産の甘藷(生甘藷・切干甘藷)は (一)原料甘藷配給統制規程により移出する場合 (二)六月一日―八月三一日の期間に移出する場合 (三)一回の移出量一一〇貫未満の場合を除き知事の許可を受けなければ県外移出が出来ないことになった。知事の許可をうけるには、生産地の市町村農会、郡農会を経て、仕向地積出地(港湾または駅名)数量・生産地または買入地を明記した申請書の提出が義務づけられた。規則には拘留又は科料の罰則規程があり(一)違反行為を教唆または幇助したもの (二)移出者は代理人・管理人・使用人その他の従業者が違反した時は自己の指揮でなかったことを理由に処罰を免れることが出来ない (三)処罰される者が法人の時は取締役または法人の代表者に未成年者または禁治産者の時は法定代理人に適用される他の統制規則に例を見ない、極めて厳しいものであった。

 稲藁・糠類の移出配給統制

 昭和一四年一二月に愛媛県稲藁糠類移出統制規則(昭和一四年一二月二〇日愛媛県令第七四号)が定められ、県内産の稲藁、米糠、麦糠の県外移出は知事の認可が必要になった。許可を受ける者は、仕向地・積出地・数量・生産地名(又は買入地)を明記した申請書の提出が求められ、違反者には前項甘藷移出統制規則と同一の罰則が設けられた。
 原料稲藁の不足は、藁工品の減少となり各方面に大きい影響を与えたが、特に肥料の容器(叺)の不足が肥料の生産、配給に支障をきたし、昭和一五年の春肥から過燐酸石灰の空叺が一枚七銭で回収されるようになった。太平洋戦争に突入後は、肥料、飼料の減少に因る生産農家の自家用藁の増加(自給肥料飼料材料)と、軍需、供出藁工品の増加で、稲藁と加工品の不足がますます深刻となり、昭和一七年九月に藁工品配給統制規則(昭和一七年九月農林省令第六九号)が制定され、同年一〇月に愛媛県藁工品配給統制規則施行細則(昭和一七年一〇月一三日愛媛県令第一一〇号)の公布となり、叺・縄・筵・苫・綱・もっこ・ふごの取扱は知事の指定する業者に限定されることになった。
 県農会もこの稲藁不足に対処するため昭和一七年に次記の要綱を作成し配給の統制指導を行った。

        愛媛県農会稲藁取扱要綱(昭和一七年一一月一九日)

  一、市町村農会は部落農事団体を督励しその区域内に生産せられたる稲藁につき郡農会に報告すること
  二、農会は知事の命令ありたる場合を除き個人の申込に対しては配給斡旋をなさざるものとす
  三、稲藁の配給斡旋は左記要領で行う
   (イ)同一市町村内における農家用品の製作又は販売加工及び飼料等の原料藁は市町村農会の計画により斡旋する
   (ロ)所属町村農会の区域外より稲藁を購入する者は郡市農会に申込みその指図によること
   (ハ)所属郡市農会の区域外より稲藁を購入する者は購入希望の郡市農会に申込みその指圖によること
   (二)藁加工業者に対する配給は実情に応じ県又は県農会において郡市農会に指圖する
  四、軍部供出用藁は県農会において指圖する