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愛媛県史 社会経済1 農林水産(昭和61年1月31日発行)

一 農作物の生産統制


 農作物の作付制限

 国家総動員法(昭和一三年五月五日勅令第三一七号)により昭和一六年一月に臨時農地等管理令(昭和一六年一月三一日勅令第一一四号)が公布され、農地を耕作以外の目的に供する場合は知事の許可が必要となり、また知事が必要と認めた時は農地の権利者に対して耕作を勧告し、あるいは適当と認める人に耕作を命じ、さらに耕地の利用についても制限することが出来るようになった。
 この制限規定により、米その他の食糧農作物の作付を確保するため、昭和一六年六月に愛媛県農作物作付制限規則(資料編社会経済上六六頁)が制定され、農地に果樹・桑・竹類・庭木を新植することが禁止され、また昭和一五年中の実績を超え、田に稲以外の作物、畑に西瓜・甜瓜・花卉・苺を栽培することが禁じられた。
 この作付制限で、国の割当による作付、自家用としての作付その他の特例を除き、田の作付は米麦、畑は甘藷・麦・玉蜀黍の食糧作物に限定されることになった。
 農作物作付制限規則は公布からわずかに五か月後の一一月に廃止され、新たに農地作付統制細則(資料編社会経済上七一頁)が制定され、食糧農作物確保の視点から農地の利用制限がさらに強化された。この統制細則の施行により、昭和一五年九月一日以後、農林大臣の指定する食糧農作物(稲・麦・甘藷・馬鈴薯・大豆)を作付けした農地には右作物以外の作付が禁止され、また農林大臣が指定する制限作物(桑・薄荷・煙草・果樹・花卉)を食糧農作物に転換する必要かあるときは、農林大臣から知事に、知事から市町村に通知し、市町村は農地の耕作者に作付の転換を指示することが出来るようになった。
 この指示により、食糧農作物に転作するときは桑・茶・果樹などの整理に要する費用として反当二〇円~三〇円と、新たに作付する食糧農作物の種苗代の三分の一の助成金が交付された。
 また市町村農地委員会は、管内の農地で裏作その他の耕作が可能な農地でありながら利用されていないもの、あるいは利用方法が適切でない農地や休耕地に対して耕作を勧告し、勧告に応じない耕作者、耕地に対しては適当と認める者に知事が耕作を命ずる措置がとられた。

 系統農会の農業生産統制

太平洋戦争勃発直後の昭和一六年一二月二七日に、国家総動員法に基づき農業生産統制令が公布され、系統農会に農業生産に関する諸事項を統制する権限が附与された。県農会はこの統制令により次の統制規程概要を骨子とする愛媛県農会農業生産統制規程(資料編社会経済上一二〇頁)を定め、農業生産計画の樹立、地域別耕種改善基準の策定、各種農作業の統制指導に着手した。

        愛媛県農会農業生産統制規程概要
  一、市町村農会は管内で生産する主要農産物の種類、数量、作付面積、生産に必要な事項について農業生産計画を樹立
   する
  二、郡農会はこの市町村農会の農業生産計画に基づき郡内の農業生産計画を樹立する
  三、県農会は各郡農会の生産計画に基づき県の農業生産計画を樹立する
  四、県農会は地域別耕種改善規準を定め農作業の方法につき必要な指示をする
  五、県農会は必要に応じ、田植、収穫、脱穀その他の重要な農作業につき一斉作業又は共同作業の統制を実施する
  六、県農会は特に必要と認める時は農業労働移動班の出動を郡農会長に指示する
  七、県農会は郡農会に対して役畜と主要農具の必要なものにつき、移動又は利用の統制を指示する

 系統農会は日中の開戦いらい、各種の指導、奨励活動の中で、農業生産計画の樹立、地域別耕種改善基準の策定を実施し、また昭和一五年四月の農会法改正(昭和一五年四月五日法律第九九号)で事業中の指導奨励の項に新たに「統制」が追加され、生産に関する統制的指導の途も拓かれていたが、農業生産統制規程の制定で農会の指導力は一段と強化された。しかし明治二九年に、農村を指導する民間団体として設立され、各時代を常に農家と共に歩み続けていた農会がこの統制規程の実施を転機として次第に戦時農政の下請機関的性格の団体に変貌した。