データベース『えひめの記憶』

えひめの記憶 キーワード検索

愛媛県史 地誌Ⅱ(中予)(昭和59年3月31日発行)

一 砥部焼の里


 砥部焼とみかんと公園の町

 砥部町は伝統的地場産業である砥部焼と中心産業である果樹園芸農業で知られ、多くの観光客を集めている。さらに、県立自然公園の障子山をはじめ、県立総合運動公園・銚子渓谷(滝)・銚子ダムなど、美しい自然にマッチした観光資源に恵まれている。こうした環境の下、従来の〝砥部焼とみかんの町〟に、近年は〝公園の町〟を加えたキャッチフレーズを町政の中心課題としている。
 砥部焼は、陶磁器部門では四国で唯一の伝統的工芸品の産地に指定された(五一年)。清楚な白磁の肌にとけこんだ呉須絵の味の深さ、白い素地と格調の高いデザイン、やや厚手で素朴な形と材質のよさなどは、民芸的な作風の日用雑器として、本県を訪れる観光客のみやげ物として、また各種記念品として幅広い消費をみている。皿・湯呑・酒器・花器などの豊富な品物に自分で絵付けを楽しむことができる。六〇余の窯元は大南・北川毛・五本松などに分布しており、どの窯元も見学できる。なかでも梅野精陶所や砥部焼観光センター・陶芸館・砥部焼館うめのなどでは絵付けを楽しんだり、古い時代の砥部焼をみることができる。また梅野精陶所には町内に形をとどめる唯一の大登窯があり、往時の姿に復元され、貴重な文化財となっている。砥部焼観光センターにも小規模な登窯が築かれ、観光に役立っている。
 主原料となる陶石は、広田村との境をなす上尾峠付近の二か所で露天掘りされており見学も容易である。製土工程は伊予陶磁器協同組合と川登の砥部陶磁器原料・佐川製陶所が見学にむいている。なお、佐川製陶所には、今は使用不可能ながら大水車もみられ、水車時代をしのばせてくれる(写真3-33)。昭和五六年四月に砥部町は、国土庁の地方都市整備パイロット事業の一環である伝統産業都市モデル地区整備事業の対象地域に指定された。その事業の一環として陶祖ケ丘の整備計画があり、陶片陶器の道=陶祖ヶ丘へのアプローチ道路整備、町民広場整備=緑のセル(公園)、陶壁の設置、句碑の設置、陶芸創作館の整備、登窯の煙突の保存などが予定されており(五八年度完成)、県立窯業試験場や県立松山南高校砥部分校デザイン科とも合わせて砥部のシンボルゾーンが生まれる。


 みかんの町

 明治中期以後、丘陵性の山地を開墾して果樹栽培が始まった。かつて宮内地区を中心に和梨・富有柿の産地として名声を博したが、現在はみかんが主流を占めている。南部の旧砥部地区には温州みかんが多く、北部の原町地区には伊予かん・はっさく・ネーブルなどの雑柑が多いが、近年は雑柑類への移行がみられる。五四年の果実生産額は約二二億円で砥部焼の二倍以上を占め、農業粗生産額の七〇%を占め、みかんはそのうち一二億円を生産して第一位である。こうした果樹の収穫期の秋には観光みかん狩り園として交通至便な樹園地を中心に多くの観光客をうけ入れている。


 公園の町

 五五年の夏に〝四国路を駆けろ若人 意気と熱〟の大会スローガンのもとに開かれた高校総体(五五総体)の主会場となった県営総合運動公園は、総面積五二・八haで主要施設としては、陸上競技場・体育館・庭球場・球技場などのスポーツ施設のほかに、多目的広場・中央広場・こども広場・修景地・花木園などを備えており、その規模・施設において四国随一を誇っている。五七年度の利用者数は一二○万人に達した。県民のスポーツやレクリエーション需要の増大に対処するため、一部拡大を図り広域公園としての施設整備が計画され、将来は県立動物園も道後から移転される予定であり(六二年度開園予定)、一大レクリェーション地域となろう。
 以上の観光資源に加えて、地質学上きわめて貴重な資料とされる中央構造線上の断層のうち逆断層が顕著にあらわれた砥部衝上断層が岩谷口の砥部川にある。これは昭和一三年(一九三八)に国の天然記念物に指定されており、見学者も多い。また、砥部川上流の赤樽谷には銚子渓(滝)があり、四季を通じてのハイキングコースであった。しかし、この上流に砥部地区県営灌漑排水事業として銚子ダムが計画され、銚子渓は景観を変えた。ダム本体は五二年に完成した高さ四七m、長さ一四二mの中心コア型ロックフィルダムで、総貯水量七八万トンで町の基幹産業であるみかん園のうち、四七二haを灌漑するとともに新たな観光地として期待されている。
 その他、史跡としては、大下田・南が丘などの古墳群や南北朝期の豪族大森彦七の供養塔(宮内)、千里城址(川登)、それに矢取川など彦七にからむ伝説の地も多い。また、いまの新劇の前身を創始した芸術院会員、故井上正夫の誕生地の碑が大南にある。このように砥部焼の里にふさわしい各種の観光資源に恵まれ、県都松山や道後温泉を訪れる観光客や国道三三号を通過途中の観光客などを多数受け入れている。