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愛媛県史 地誌Ⅰ(総論)(昭和58年3月31日発行)

4 海の汚染

 瀬戸内海と宇和海の汚染

 愛媛県をとりまく瀬戸内海や豊後水道では古くから漁業がさかんで、各種の魚介類が水揚げされてきた。ところが、昭和四〇年頃になると、それまで多量にとれていたタイヤサワラなどが減少したり、逆に、カタクチイワシやイカナゴなどが増加したりして、とれる魚の種類や量に異変が生じるようにたった。また、プランクトンの異常増殖によってひきおこされる赤潮が大発生して、養殖ハマチなどが大きな被害を受けたりするような現象もおこりはじめた。
 このような異変は、瀬戸内海沿岸の工業化と深い関係をもっている。岡山県の水島コンビナートや、香川県の坂出コンビナートなどが建設されるにしたがって海洋の汚染が進行し、海水中のBOD(生物学的酸素要求量)やCOD(化学的酸素要求量)などの値が増加してきた(図2―60)。愛媛県でも燧灘沿岸の川之江市・伊予三島市や新居浜市付近などに多数の工場が立地し、その周辺では以前から汚染問題が指摘されてきた。そのため、燧灘南岸沿いの地域を中心にしてしばしば赤潮が発生している(図2―61)。ただ、斎灘や伊予灘付近では、沿岸の工場数がそれほど多くないため、瀬戸内海の他の地域に比べると汚染の進行はそれほど著しくない。
 このように瀬戸内海の汚染は、工場や家庭からの排水による問題に加えて、瀬戸内海の内海としての位置と密接なかかわりをもっている。すなわち、瀬戸内海の海水は、潮汐に伴って東南の紀伊水道と西南の豊後水道、それに極めてわずかであるが西端の関門海峡の三か所のみで外洋と交換しており、全体的な海水の移動、外洋水との交換の度合いは極めて低い。そのため、瀬戸内海の奥に存在する海水は、各種の排水などによって汚染されながら滞留し、汚染物質の濃度が次第に高くなるのである。 このような汚染の進行を防ぐためには、瀬戸内海の海水と外洋水との交換を促進することが望まれる。しかし、これは現在の時点ではきわめて困難で、人為的におこなうことはほとんど不可能であるといってよい。瀬戸内海の汚染を抑制する方法は、海水自体を汚染しないこと、すなわち、排水の規制によって汚染物質が瀬戸内海に流入しないようにすることである。
 豊後水道に面した宇和海沿岸の海岸は出入りの多いリアス海岸である。ここには奥深い湾が多数存在し、湾内では真珠やハマチの養殖がおこなわれている。このうち、ハマチの養殖では、多量の餌を与える。与えた餌のうち、ハマチが食べ残したものが海底に沈澱し、次第に腐敗する。ハマチの養殖が盛んにおこなわれるにしたがって、リアス海岸の湾内における汚染が目立つようになり、問題となっている。これに対して、養殖筏の制限などの措置がはかられている。

図2-60 瀬戸内海における表層のCOD分布(昭和47年8月)

図2-60 瀬戸内海における表層のCOD分布(昭和47年8月)


図2-61 瀬戸内海における赤潮の発生

図2-61 瀬戸内海における赤潮の発生