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愛媛県史 地誌Ⅰ(総論)(昭和58年3月31日発行)

2 春

 初春

 初春は三月一日から三月一七日までの一七日間で、この時期は冬から春への移行期である。気圧配置をみると冬よりはI型が明らかに減少してはいるか、まだ一七%も残っている。「春は名のみの風の寒さや……」というのはまさにこの時期で、平均して五日に一日は冬型気圧配置となる。天気の主要なパターンは気圧の谷と移動性高気圧が中心で天気の変化が激しく、春らしい暖かい日が続いた後冬に逆戻りしたりし、したがって気温の変化も大きい。この時期は入学試験・卒業式などと重なり、体調をくずす人も多い。松山での平均終雪は三月五日だが、山間部や南予の盆地では南岸低気圧によって大雪も時に降る。しかし春の淡雪ですぐとける。一〇〇〇m以上の山地では三月末まで降雪があり、暖気が入るとなだれや融雪洪水をおこす。このような激しく変化する天候は気候にもみられ、この時期の気温上昇は小さく、それに続く春と比較し明らかに小さい。 
 日平均気温が五度C以上になると植物は生育活動を始めるが、松山では二月中旬から五度Cをこえ、三月初旬にはタンポポなどの早春の花が咲く。三月六日は啓塾で、冬ごもりをしていた地中の虫や小動物が地上にはいでてくる意味である。虫がでてきて花の咲く季節であるから蝶がでてくる。モンシロチョウの初見日は三月一一日、アゲハなどの大形蝶は約一ヵ月おくれキアゲハは四月一四日である。虫がでて花が咲きはじめ、昆虫がでてきてもまだ渡り鳥は来ない。つぼめが来るのは春になってからである。

 春

 春は三月一八日から五月四日までの四八日間にわたる。冬型はほとんど現れなくなり、気圧の谷と移動性高気圧型が全体の約八〇%を占める。気圧の谷と移動性高気圧はワンセットになっていて、天気は変わりやすく三日から五日の周期が多い。低気圧が日本海を通過する場合の典型的な天気変化をみてみよう。低気圧が近づくと温暖前線による雲が現れ、次第に低くなり、ついには雨が降りだす。その後前線が通過し気温が急に上昇し天気は回復するが、低気圧の暖域に入ったためでこのような時に瀬戸内海に移流霧が発生する。次に寒冷前線が近づき、背の高い雲が現れにわか雨がふったり時に春雷をともなうこともある。その後気温は急に下がり、天気は急速に回復する。気圧の谷の後面には移動性高気圧がひかえ、とくに移動性高気圧の東側の前面はよく晴れ、風がよわく湿度も低いので視程もよい。したがって日中はかなり高温になり植物の生育は急速に進むが、夜間には放射冷却がさかんになり、明け方地面付近でいちじるしく低温になり霜がおりることもある。
 松山での晩霜の平均は春のなかばの四月六日であるが、県内の内陸盆地や高原では春の終わりの五月二日、つまり「八十八夜の別れ霜」の頃まで続く。晩霜害は桑園・茶園などに大きな被害を与え、都市近郊の春野菜も収穫を前に一夜にして黒く枯死させてしまう。高気圧の中心を通りすぎると天気は下り坂にむかう。まず上層雲が現れ一面にひろがり、次第に厚みを加え、花ぐもりとなる。実際には移動性高気圧はかならずしも西南日本を中心に通るとは限らず、北を通ったり南を通ったりする。北側を通ると高気圧の南のふちにあたるので北東風が吹き、天気は一般に悪くなる。そのうえ次の気圧の谷でも悪天が続くので、ぐづついた天気が数日から一週間も続くことになる。三月下旬から四月にこうした天気が現れ、菜種梅雨などとよばれる。
 一方高気圧が南側を通ると温暖で好天が卓越し、春らしいおだやかな日が続く。春はまた暴風日数の多い季節でもある。四月三日頃は瀬戸内海に悪天が現れる特異日で、春の荒れがおこる。春には日本海に低気圧が発生し、急速に発達するので、広い範囲にわたって暴風なり、強い南風が吹きあれる。東予海岸平野に吹くやまじ風はこのような気圧配置のときに吹く。
 図2―42の春の気温の上昇をみてみよう。春は前の初春後の晩春より明らかに気温の上昇が急激で、年間で最も大きい。初春の一日当たり平均気温上昇は○・○七六度C、春は○・一六九九度C、晩春は○・○九四度Cで、いかに春の気温上昇が激しいかがわかろう。サクラをはじめ種々の花が咲き、虫や動物など生きとし生けるものが活発になる季節である。「暑さ寒さも彼岸まで」という春分の日の日平均気温は八・六度C、これ以降は肌寒い日はなくなる。同じ太陽光のある秋分の日の日平均気温は二一・七度で、暑くもなく寒くもない最も人間の活動によい気温は一〇度Cから二〇度Cだとすれば、春の季節は秋とならんで一年中で最も快適な季節であるといえよう。
    
 晩春

 晩春は五月五日から五月二一の一二日間で短期間である。気温の上昇は春よりもややおそくなり、日照時間の減少、日降水量の増加が晩春の初期にあることは、年により五月初旬には前線が停滞し悪天が続くことがあることを示している。
 五月の晴天を五月晴れとよんだりするが、本来の意味は陰暦五月の晴れ間をさし、現在の六月の梅雨時の中休みの晴れ間をいったものである。日平均気温は一〇から一五度Cになり、樹々の緑は濃さを次第にまし青葉の季節になる。青葉の香りをはこぶ風を薫風と名づけ、風かおる五月ともいうが、五月にはまた暴風雨の日も多い。日本海に低気圧が発生し、発達しながら東進すると各地に春の嵐が吹きあれる。宇摩平野に吹くやまじ風は五月に最も頻度が高い。
 晩春の最後は暦の上の小満の入り。春の陽光をいっぱいにすった春の生物の満ちあふれる力のいぶきを感じさせ、緑の野山にキリ・フジ・ハナショウブといった花の見ごろは晩春である。晩春は立夏で始まり光の季節ではもう夏であり、小満で終わる。