データベース『えひめの記憶』

えひめの記憶 キーワード検索

愛媛県史 地誌Ⅰ(総論)(昭和58年3月31日発行)

1 季節区分

 二四節季七二候

 日本の季節区分には古くは奈良時代に中国から伝来した二四節気七二俣がある。この区分方法は天文区分の一種で、一年を通じての太陽の道すじである黄道上の点を太陽が通過する日付で季節の境界とするいわば光の季節区分である。黄経○度、三月二一日頃が春分点、黄経九〇度、六月二二日頃が夏至点、黄経一八〇度、九月二三日頃が秋分点、黄経二七〇度、一二月二二日が冬至点となり、さらにその中間点である黄経四五度、五月六日頃が立夏、黄経一三五度、八月七日頃が立秋、黄経二二五度、一一月七日頃が立冬、黄経三一五度、二月四日頃が立春となる。
これをさらに黄経一五度ごとに二四に区分したのが二四節気で、立春・雨水・啓塾・春分・清明・穀雨・立夏・小満・芒種・夏至・小暑・大暑・立秋・処暑・白露・秋分・寒露・霜降・立冬・小雪・大雪・冬至・小寒・大寒である。各節気は初候・二候・三候に三分され、合計七二候となる。この区分は気候が太陽エネルギーのみで定まらないので、実用上問題も多いが、立春・立秋・大暑・大寒などは今日でも季節の到来を知らせる指標として多くの人々に親しまれている。

 天気図型による季節区分

 現在の季節区分には気温や降水量の日々変化、特異日などを目安にした区分があるが、ここでは長年にわたる月日別の気圧配置の出現回数から季節区分をした例をあげておこう(吉野・甲斐・昭和五〇年)。気圧配置は広い地域における風・気温、天気、高気圧、低気圧、前線などの気象要素の分布を総観的に示しているので、総観気候学的季節区分といえよう。昭和一六年一月一日から同四五年一二月三一日の毎日九時の天気図を次の八つの型に分類する。I西高東低の冬型、Ⅱ気圧の谷、Ⅲ移動性高気圧、Ⅳ前線、V南高北低の夏型、Ⅵ台風、Ⅶ移行型または中間型、Ⅷ結合型。結果を示す(図2―40)。一月はⅠ型が四六・五%におよぶ。七・八月はV型がそれぞれ三一・二%、三五・八%である。Ⅲ型は四月と十月に、Ⅳ型は六・七月と九月に、Ⅳ型は八月に多く、Ⅱ型は夏を除いて一年中二五~三〇%で、各型の季節ごとに現れる頻度が、明確に図から読みとれる。この月日別の気圧配置の出現回数の統計結果、前日差の大きな特異日、従来の研究結果などから次のような季節区分をした。
 初春三月一日―三月一七日、春三月一八日―五月四日、晩春五月五日―五月二一日、初夏五月二二日―六月一〇日、梅雨六月一一日―七月一六日、夏七月一七日―八月七日、晩夏八月八日―八月二〇日、初秋八月二一―九月一一日、秋雨九月一二日―一〇月九日、秋一〇月一〇日―一一月三日、晩秋一一月四日―一一月二五日、初冬一一月二六日―一二月二五日、冬一二月二六日―一月三一日、晩冬二月一日―二月二八日。以上一年を一四の季節に区分し、春は八二日間、夏は九一日間、秋は九七日間、冬は九五日間となる。各季節における気圧配置型の出現頻度をみると、図2―41のようになる。
 I型は冬を中心に秋から春までみられるが、初冬・冬・晩冬には三〇%以上となり、この期間は平均して三日に一日は冬型気圧配置となる。ただし県内の平野部に降雪がみられるのは南岸低気圧型で、これはⅡ型に相当し晩冬から早春にかけて出現頻度が高くなるⅡ型はほぼ年中現れるが、とくに多いのは初春・春・晩春と秋・晩秋で、春と秋を特徴づける気圧配置である。移動性高気圧のⅢ型はⅡ型とワンセットで現れることが多く、やはり春と秋に多い。梅雨期はⅣ型でこれからV型が夏・晩夏に急激に出現頻度が逆転し、ここで雨期から乾期にいたる激しい季節変化がみられる。Ⅵ型は晩夏に最多となるが、実際の台風災害は九・十月に多いのは、台風の季節による経路の差異に起因する。

 生物季節

 植物の発芽、開花、紅葉、落葉などの期日は、季節の推移をトータルに現す。とくに広範囲に分布し、開花などの季節現象が同一場所であまり遅速のないものが指標植物として選ばれる。指標植物としてすぐれているものに「サクラ」がある。サクラは広く分布し樹高がほぼそろいかなり高いので、地面付近の局地的影響をうけにくい。そのうえ観光資源として多くの人々にその開花が古くから関心がもたれている。
 サクラ(ソメイヨシノ)の松山での平年開花日は三月二九日、宇和島二七日となっている。宇和島と松山のサクラの開花日の差は三日間で、両者の距離は約七〇㎞なのでサクラの開花前線は一日に二〇㎞余りで県内を北上することになる。日本列島全体でみてもサクラ前線の北上速度は緯度一度(約一一〇㎞)につき約六日間で、県内のそれとほぼ一致する。もちろん高度が増すと遅くなり、標高一〇〇mにつき二から三日の割合でおくれる。また局地的な気候の影響も加わり、大都市の市街地では都市温度の影響で、サクラの開花が二から三日郊外より早くなる。もちろんその年の天候の変化も大きく影響する。サクラの開花は、開花以前四〇から五〇日間の平均気温との相関がよく、いわば晩冬から初春にかけての自然の積算温度計なのである。
 サクラの開花日ばかりでなく、各種植物の生育状況、動物の出現、去来、啼鳴などの期日を生物季節といい、季節推移の重要な指標であるぽかりでなく、気候の累積効果や地域性、さらには気候の変動を知る上でも貴重な資料となる。京都では宮中の観桜御宴の記録が九世紀からとられ、世界的に有名な気候変動を知るための手がかりとなっている。
 アメリカ合衆国のA・D・ホプキンスは北米各地の生物季節を調査し、北米東部について次のような結論をだしている。温帯北米では緯度一度・経度五度・高さ四〇〇ft(約一二〇m)ごとに四日平均の割合で生物活動は、春や初夏には北や東に、高度は上方に向かっておくれる。また夏から秋には反対になる。これを北米での生物季節の法則とよんだ。日本でも同様の法則はみられるが、北米東岸とは異なる。表2―6に松山におけるおもな生物季節の指標をあげる。ここでは総観気候的方法によって設定された季節区分をもとに、松山における気温・降水量・日照時間などの気候要素の季節変化および生物季節をとりあげ、四季の変化を概観してみよう。

図2-40 気圧配置の各型の月日別出現頻度の年変化(昭和16~45年)

図2-40 気圧配置の各型の月日別出現頻度の年変化(昭和16~45年)


図2-41 各季節における気圧配置型の出現頻度

図2-41 各季節における気圧配置型の出現頻度


表2-6 松山市の生物季節

表2-6 松山市の生物季節


図2-42 春の季節

図2-42 春の季節