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臨海都市圏の生活文化(平成7年度)

(3)進水式の日

 平成7年8月29日、今治造船第1号船台で第516号船「RUBIN BONANZA号」2万6千トンの進水式が行われた。
 船の形が整い、船体の塗装が終わると、船は船台から海に下りる。この日が船の誕生日、進水式の日である(写真2-1-21参照)。
 進水の儀式では、まず命名が行われる。船名を覆っていた幕が除かれ、船首の両舷(げん)に船名が現われる。
 次に進水が行われる。
 進水準備完了報告。進水作業始めの合図。支綱(ささえずな)(船体を支えているロープ)が、銀斧(おの)のひと振りでポーンと切断されると、シャンペンが割られ、船は音もなく進水台の上をゆっくりと動きだす。船首の最先端に取り付けてあるくす玉が割れると、音楽とともに五色のテープが舞い、人々の見守る中を巨体が力強く海へつき進んでいく。まさに感動の一瞬である(口絵参照)。
 **さんは、「船の真ん中にストッパー(停止装置)があるんですよ。そこに一人待機していて、シャンペンが割れると、ぱっとそのストッパーをはずすんです。
 支綱切断の紅白の細いロープは昔から、安産のお守りにと希望する人が多いんですよ。わたしら、造船所に入った昭和30年(1955年)ころは、もちまきやって、進水の時には、鳩をずーと飛ばして、折り詰めとタオルをもらい、派手だったんですよ。」と話される。
 **さんは、「戦前から、進水式言うたら、小さい船であったら、もちまいたり、笹の葉たてて、短冊(たんざく)や祝儀(しゅうぎ)袋ぶらさげたりしました。あれも一つの儀式だったけれど、子供の時分から、そういう進水式のあの華やかさにあこがれていた面はありましたですね。
 大家さんが、家何軒も建てたのと同じように、船主さんも、親戚の者や友達を呼んで、進水式やって、その思いは、今も記憶に残るところでしょうね。
 昨日も丸亀で1隻引き渡しをしてきました。今は、大きい船はドックで建造するので、船台で建造したときのように滑走せんで、ドックに注水し進水確認をするようになりました。受け渡しのときは、デッキの上で書類交換するだけです。そういう時代になってきたんですね。」と行事の移り変わりについて話される。
 進水ののち、波止浜湾頭に勇姿を浮かべた「RUBIN BONANZA号」に対して、新造船にかかわった人々の、新造船誕生の喜びと熱い思いがそれぞれに語られた。新造船の誕生を祝って集まった関係者が、新造船をバックにみんなで記念撮影(写真2-1-22参照)を行い進水式は終了した。
 新造船は、平成7年10月を目標に艤装(ぎそう)(船体が完了して、進水した船に就航に必要な装備を施す)を終えて、公試運転などした後、造船所から船主に引き渡しが行われ、いよいよ最新鋭の木材運搬船として、北米航路に就航する。
 **さんは、「造船マンは、進水式と受渡しの感激があるから勤まるんです。苦労して造った船ほどジーンと来るんです。ものを造る喜びがあるからね。苦労しても、しがいがあるんです。形のないものが、形になるんですから。そして出港していくんですから。」と、造船マンの手によって形造られ、命を吹き込まれた新造船の誕生を喜ぶとともに物造りの生き甲斐(がい)をこう締めくくってくれた。

写真2-1-21 進水式を待つ船

写真2-1-21 進水式を待つ船

平成7年8月撮影

写真2-1-22 進水した船をバックに記念撮影

写真2-1-22 進水した船をバックに記念撮影

平成7年8月撮影