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臨海都市圏の生活文化(平成7年度)

(1)宇摩地方の製紙

 愛媛県の最東端の宇摩(うま)地方は、香川、高知、徳島の3県に隣接し、四国の中央部に位置し、緑深い雄大な四国山脈の山並みを背景に、美しく波静かな瀬戸内海に囲まれた風光明美な環境の中にあり、伊予三島市、川之江市の2市と、宇摩郡(土居町、新宮村、別子山村)からなる。紙関連産業は、愛媛県内においては三島、川之江地域に集中的に立地し、全国有数の生産地となり、愛媛を代表する産業の一つである。わが国の紙・板紙(いたがみ)(*4)の生産量は世界の約10%、愛媛はさらにそのうちのおよそ10%を占める(図表2-1-1参照)。愛媛県のパルプ・紙の業種別製造品出荷額は、平成6年の工業統計調査によると、愛媛県全体の14.2%を占め、宇摩地方は、さらにそのうちの91.4%を占める。また、宇摩地方だけをみると、事業所数の44.5%、従業員数の63.5%、製造品出荷額等の78.6%を占め、この地域の産業構造が、パルプ・紙に著しく特化しており、まさに「紙の町」と言われるゆえんである。
 宇摩地方は、様々な紙関連産業が多く集まっているのがその特徴である。上場企業から中小企業に至るまで300以上の事業所が立地し、数万品目にも上る商品を作り出している。
 宇摩地方の製紙の歴史は、およそ220年前の宝暦(ほうれき)年間(1751年~1763年)にさかのぼり、初めは藩から特別な保護を受けることなく、数軒が嶺南(れいなん)(法皇(ほうおう)山脈以南の銅山川流域)の奥地の山谷で、自生のコウゾやミツマタを原料として紙をすいていた。天保12年(1841年)には今治藩が三島に紙役所を置いて資金を貸し与え製紙を奨励した記録がある。
 慶応から明治にかけて、薦田篤平(こもだとくへい)など先覚的指導者が現れ、農家の副業として製紙の奨励普及に努め、今日の製紙の草創(そうそう)期の基礎を築いた(③)。
 明治44年(1911年)には製紙戸数762戸を数え、手すき和紙の黄金の時代となった。また、時代の流れとともに、機械工業化が進み、篠原朔太郎(しのはらさくたろう)がビータ(叩解機(こうかいき)(*5))の改良と回転式の三角乾燥機(*6)を発明して、和紙製造に機械動力を利用した画期的な技術改善を行い、ますます発展への道が開かれることとなった。大正に入ってスウェーデン製の抄紙機(しょうしき)(紙すき機)が導入されたことが契機となって急速に機械化が進み、機械すき製紙工場が次第に増えた。第2次世界大戦以後は紙の需要増加にともない、生産規模の拡大が図られていった。特に昭和22年(1947年)には洋紙抄紙機が導入され、洋紙(*7)、板紙の新しい領域への進出が図られたり、昭和27年(1952年)には宇摩郡民の安政2年(1855年)以来100年の夢であった吉野川の支流の銅山川疎水(そすい)事業が完成し、工業用水が確保されたりした結果、当地の製紙業は飛躍的発展へと向かった。
 一方紙加工業の歴史は、江戸末期から明治初年ころの元結(もとゆい)(*8)の製造に始まり、この技法を継いで水引(みずひき)(*9)の製造が活発になり、結納品(ゆいのうひん)や金封(きんぷう)、のし紙など、伊予の水引として知られるようになった。戦後は、時代にマッチした紙加工品が開発され発展を遂げている。

   海外からも注目を集める「機能紙研究会」
 昭和36年(1961年)に「化繊紙(かせんし)研究会」としてスタート。四国工業技術試験場、愛媛県製紙試験場、高知県紙業試験場が中心になり化合繊メーカー、製紙関係者と図って発足させた(③)。昭和57年(1982年)度から会名を「機能紙研究会」として新しく機能紙(*10)という考え方を提示した。徳島市で開催された本年度の会には、製紙、薬品、鉄鋼関係などから幅広い参加者があり、その数は350名に上った。また、アメリカ、中国、韓国など海外からも大勢の参加者があった。この会は、官、産、団の三者で構成されており、小ロット(*11)の特殊な働きを持つ紙に関する世界で唯一の研究会としてその活動が注目されている。
 この研究会では、従来の紙の主原料だった植物繊維にとらわれず、合化繊維、金属繊維、無機繊維などあらゆる繊維に素材を拡大している。さらに加工を加えることにより特性を付与した機能紙は今では、エレクトロニクス産業、バイオ産業など先端技術産業を支える新素材として注目を集めている。機能紙研究会は、このように紙を、新素材として探求することを目的としており、事務局は川之江市川之江町の愛媛県紙・パルプ工業会内にある。


*4:紙は、1平方メートル当たりの重さで測られる。一般にいう紙は8~150g/m²で、600g/m²以上を板紙と呼び紙と区
  別する。
*5:和紙の原料叩解(原料の繊維をたたいてほぐす)の動力にボイラーを使用した機械。
*6:ビーターの動力であるボイラーから出る廃蒸気を利用した鉄板製回転式三角形乾燥機。
*7:木材パルプを原料とし、機械すき製紙法でつくられる紙の総称。
*8:髪のもとどりを束ねるひもや糸。
*9:細い紙ひもに水糊を引いて乾かし固めたもの。
*10:従来の紙の繊維にとらわれず、新素材を活用し、加工により特性を付与した特殊なはたらきのある紙。
*11:lot、工業製品の製造単位。

図表2-1-1 愛媛の紙・板紙の生産量(平成6年)

図表2-1-1 愛媛の紙・板紙の生産量(平成6年)

『愛媛県紙パルプ統計年報(①)』より作成。