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臨海都市圏の生活文化(平成7年度)

(1)波方海員学校の歩み-熱い期待のもとに-

 ア 国立粟島海員学校波方分校の誕生

 昭和43年(1968年)3月20日、国立粟島(あわしま)海員学校波方分校(*10)は、全国初の内航海員養成機関として、内航海運のメッカ波方町に開校した。
 現波方船舶協同組合長がまとめた『国立波方海員学校の由来(⑪)』によれば、「内航海運に限って言えば愛媛の船腹量は全国の15%、四国の77%を占めるに至り、このうち今治地方が愛媛の88%を占めるに至った。この大きな船腹供給地にも船員不足という大きな悩みが進行し、それが日増しに増大してきた。この船員不足という問題は全国的な傾向で独り愛媛県に限ったことではないが、日本一集中的内航船腹量を持つ当地方が日本一多くの内航船員を必要とするのは自然の理であり、特に内航海運小型鋼船の求人難は一層深刻なものとなることが予想されていた。この問題(船員不足)の解決は如何(いか)にして若年労働者(中学卒、高校卒業生)を船員として乗船させるか、数々の議論があった。…その結論として内航船員の養成所としての海員学校を作り、船員養成教育を施し免許資格を与え、士官候補生として将来に大きな希望を持たすことが一番の方法ではないかという意見があった。」と、内航海運業界が海員学校の設置を熱望した当時の事情について述べている。
 昭和39年(1964年)ころから波方船舶協同組合の総会の場などで、波方町に国立の海員学校誘致の気運が高まり、瀬野政次郎組合長を中心に組合の役員が、愛媛内航海運組合連合会はじめ四国の関係各種団体に働きかけ、さらに愛媛県下の政・財・官界の協力と尽力のもとに国立粟島海員学校波方分校が誕生した。
 **さんは、「昭和43年4月15日、第1期生80人の入学式を終え、同日後援会の発会式も行う。華やかな開校式であった。高度成長の流れに乗って内航海運界も、近海、遠洋の海運業界も船腹の増大が著しく進行する時代であった。(⑪)」と、開校当時の感激を記している。また、初代校長の渡辺金城さんは、『海員学校50年の歩み(⑫)』に「開校のエピソード」とする思い出の一文を寄せ、「そのPR用として、波方船主の新造船を使って、乗組員の素人役者によるドキュメンタルなホームドラマの8ミリ映画まで作成してくれ、設立準備委員たちと同伴で四国、中国、九州方面の中学校を巡回し、また、地元有志の別動隊が手弁当で北海道、東北、北陸地方まで足を伸ばして宣伝に協力してくれ、涙の出るほど感激した。」と、波方の人々の並々ならぬ協力ぶりを述べている。

 イ 国立波方海員学校の独立と現状

 このようにして、全国で唯一の内航船員養成学校として開設された国立粟島海員学校波方分校は、昭和49年(1974年)波方海員学校として独立した(写真1-1-30参照)。開校以来、今日までの歩みを略年表であげると、次のようになる。

 〇昭和43年3月30日
   運輸省令により粟島海員学校波方分校設立。
   修業期間3か月、養成定員240名(80名×3回)。
   入学資格、中学校卒業以上、15歳以上19歳6か月未満。
 〇昭和45年4月
   本科内航科(1か年の航海科、機関科)を設置。
 〇昭和48年3月
   乙種2等航海士、内燃機関乙種2等機関士の船舶職員養成機関に指定。
 〇昭和49年5月
   粟島海員学校波方分校を廃止、波方海員学校(本科)として独立。
 〇昭和52年7月
   専科(高校卒対象、修業年限1か年)新設、航海科と機関科を設置。
 〇昭和53年4月
   乙種1等航海士、内燃機関乙種1等機関士の船舶職員養成施設に指定。
 〇昭和58年12月
   4級海技士(航海)、内燃機関4級海技士の船舶職員養成施設に指定。
 〇昭和61年4月
   専科は高校卒1年制の専修科に改正され、専修科に内航課程航海科と機関科を設置。
 〇平成4年3月
   修業年限2年制(定員80名)となる。
 〇平成8年3月
   卒業生1,527名(女子12名)となる。

 特に、平成4年度には教育期間を1年制から2年制に延長したことにより、内航海運界の大きな期待を集めている。これまでの1年制教育では、乗船実習が1か月と短く、卒業してもすぐには4級海技士免許の受験資格がなく、船会社で2年間の乗船経験が必要であった。このため、修学期間を1年延長し、運輸省の航海訓練所で9か月の乗船実習(大型練習船「日本丸」、「銀河丸」等)を経験すると筆記試験が免除され、卒業と同時に国家試験(口述試験・身体検査)を受験できるようになった。国家試験に合格すると4級海技士の資格を得られ、さらに3級以上の海技士筆記試験も在学中に受験できるようになった。その結果、これまでは入学者は定員割れが続いていたが、平成4年度からは志願者が増加して定員(80人)をオーバーするようになり、平成6年度の入学者83名(うち女子6名)、平成7年度の入学者83名(うち女子2名)と、明るい展望が開かれつつある状況である。


*10:香川県三豊郡詫間町粟島。

写真1-1-30 海の若者を育む波方海員学校校舎

写真1-1-30 海の若者を育む波方海員学校校舎

平成7年10月撮影