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県境山間部の生活文化(平成5年度)

(3)「小田形式」を目指して

 ア この地域のもっともふさわしい医療・福祉とは?

 平成2年の国勢調査によれば、高齢化の指標である「老齢人口比(全人口に占める65歳以上の割合)」が、全国平均の11.9に対して、小田町は25.1であり、町民の4人に1人はいわゆる「お年寄り」で占められている。国全体の高齢化が問題となり、対策が急がれる昨今ではあるが、それでも西暦2000年の「老齢人口比」を約20と予想しているのだから、小田町がいかに「高齢化の先進地」であるかが、よくわかる。このような地域にあって、どんな医療・福祉が求められているのかを、**さんは次のように語る。

 人口はどんどん減るし、高齢化は進むし、と言って暗くなるだけでいいのかなあと思うんです。「人はどんなところにいたって、ぼやく必要はない。必ずすべきことはある。必ず光は見出せる。」という気持ちで、取り組むようにしてるんです。
 ここの完成と合わせて、町の保健センターもすぐ隣にできたので、行政・医療・保健・福祉の総合的な連携プレーがスムーズにできる体制も整ってきました。それに、この施設ができてから、住民の見方・考え方が少しずつ変化してきたように感じます。車椅子でもよう座れんかった人が、入所後の機能訓練で歩けるようになって、元気になって、また自宅へ戻った方もいます。なによりも、お年寄りが活力を取り戻してくれればいいという気持ちで、接しています。それで、「施設」「老人ホーム」「託老所」という言葉だけで暗いイメージを持ってた人が多かったんですが、おかげで、老人対策の積極的な展開ができやすくなってきました。

   〇高齢者と病院
    厚生省の「患者調査」によると、65歳以上の入院患者の平均在院日数は81.1日。内訳は一般病院が74.7日、精神病院
   が748.4日(1990年現在)。 65歳以上の死亡者のうち、病院(診療所含む)で亡くなったのは73.9%(厚生省人口動
   態統計、1991年)。在宅の24.3%を大きく上回っている。(平成5年9月17日付、朝日新聞記事より)

 ようやく立派な施設というハードはできたんですが、ソフト作りはまだまだこれからです。理想は、やはり「自分ちで死にたい。」というお年寄りの気持ちに近付けることですから、あくまで在宅を主に考えています。いまのところ、在宅でできない面をフォローする態度で臨んでいますが、ゆくゆくは在宅介護支援センターを核にして、在宅看護や訪問看護へと発展させていきたいと思います。
 テキストなしで手さぐりの状態ですが、逆にやりがいもあり、独自の「小田形式」を作り出せるチャンスだと思います。今は救急医療が当たり前で、夜中の往診は「大変なことをやってます。」ということにはならないんです。この小田町では、今何が必要なのか、次の展開をどうするのか、よそにはない独自のものを追及したいと、考えています。

 イ 次の展開は

 **さんが指摘したように、**さんの先見性が今日の先進的な取り組みにつながっていることが、随所で感じられる。**さん自身も「施設の完成はゴールではなく、スタート。」と言っているが、これからの展望を語ってもらった。

 先のことは読めないけど、これまでをふり返るとそんなに間違った方向ではなかったと思うんです。国、県、町と、行政も高齢者に対しては力を入れてきましたから、一応の方向は示されたと思います。そこで、次の取り組みとして何が求められるかを考えてみると、「年寄りを支え、自身もこれから年寄りになっていく年齢層」の対策が求められてくると思うんです。成人病検診でそろそろひっかかってくる40~50代の層ですが、なかなかチェックできていないんです。上浮穴郡では、これらの層の受診率は低く、検診を受けるのはいつも病院に来ている60歳以上の方という笑えない実態です。この一番大切な年齢層に、どういう形で健康に対する意識の高揚を促していくのか?が、課題です。そこで、今考えているのが「スポーツ」への取り組みなんです。将来は、スポーツ医学的な発想が求められ、軽い心臓病や肥満など、運動療法を取り入れた展開が盛んになるはずです。
 これは夢ですが、今一番欲しいのは「温泉プール」なんです。「温水」でもいいんだけれど、小田では冬のことを考えると、太陽熱では熱源としては不十分ですから。若い層(中高年層)の運動にもつながるし、整形外科的な患者の治療には効果があるんです。
 自分の健康管理に対する意識もある程度高まりつつあるようですし、「治せばいい」という治療から、むしろ「予防医学」の展開をしていかなければならないと考えています。

 **さんが、「**先生のおかげで、今年から自治医大の先生も来るようになった。」と喜ぶ横で、**さんは言葉を続けた。

 ここがセンターになって、公衆衛生活動すべてをやっている点では、まさしく「へき地医療」なんです。若い医師にとって、必ずプラスになると思いますよ。自分自身12年間ここでやってみて、都会では勉強できないもの、得られないものがあったし。
 でも、自治医大の人は「あんたは『へき地』へ行くんではないぞ。」と言われて来たそうです。というのは、そこそこ便利な松山と距離的には離れていないし、お城下は庭みたいなもんですから。それでいて空気はいいし、うるさくもないし、朝起きたらちゃんと鳥の声はするし。ここには独特のリズムがあってね、人間がもともと持って生まれた一日の生活リズムなんでしょうか、慣れるととても心地よいんです。
 僕らみたいに、十数年生活しただけの者でもなかなか離れがたい所です。ここに、生まれ育った人なら、その気持ちはなおさらでしょう。
 要は、ここに一日の糧食を得られるだけの働く場があるかどうかってことですよねえ。

 **さんが、最先端の医療技術を小田に積極的に導入する努力を続けながらも、「病気を診るんじゃなくて、患者さんを診る」医者でありたいという、大切な心を持ち続けていることに、深い敬意の念をいだいた。「『人口はどんどん減るし、高齢化は進むし。』と言って暗くなるだけでいいのかなあと思うんです。『人はどんなところにいたって、ぼやく必要はない。必ずすべきことはある。必ず光は見出せる。』という気持ちで、取り組むようにしてるんです。」という言葉には、本当に勇気づけられる。そして、「わしゃ、ここにおりたい。ここで死にたい。」というおじいちゃんの願いが少しでもかなえられるようにと、祈らずにはおれない。