データベース『えひめの記憶』

えひめの記憶 キーワード検索

県境山間部の生活文化(平成5年度)

(3)城川町の今後と伝統的生活文化の保存

 何回かの訪問を通じて、城川の方々の、外来者へのホスピタリティ(歓待の気持ち)を感じることが多く、茶堂のお接待の精神が現在も残っているように思われた。それが緑豊かな自然とともにあることで、印象はより深いものとなった。また、同町は(茶堂の保存を含め)県内でも伝統行事がよく継承されている地域と言えるが、それが観光化されたものでも、肩肘はった文化財としてでもなく、淡々と日常生活の中に生きていることに、感銘を覚えた。これが調査者の主観でないことは、同町が近年に下記の数々の賞を受けていることでもわかる。
   *昭和60年 日本農村振興協会会長賞受賞
   *昭和61年 竜沢寺緑地公園が森林浴の森百選に選定される(緑の文明学会)
   *平成2年 美しい都市作りコンクール 経済同友会大賞受賞
   *平成3年 農村アメニティコンクール 国土庁長官優秀賞
   *平成5年 建設省手づくり郷土賞受賞-宝泉坊ふれあいの水辺
 山に囲まれた交通上の不便さは、高度経済成長の時期には不利な点となり、過疎化が進む原因ともなった。しかし、それにより萎縮することなく、かつての山村共同体の良さや「ふるさと」の美しさを保ち続けてきた城川の人々の生活は、経済至上主義が見直され始めた現在、学ぶべき価値があるように思われる。しかし、中山間地域として種々の解決すべき問題が山積していることも事実である。
 そこで、町長の河野泰成さん、教育長の菅原忠利さんから、町としての今後の進むべき方向や、茶堂等の伝統的生活文化の保存についてお聞きしたことをまとめることで、この節の結びに代えたい。
 「この城川は、肱川水系の最上流であることから、森を守り田畑を守ることが、下流住民の方々のためにもなると考え、自然の美しさ・すがすがしさを最大限に活かすことを、町政の基本としております。そうかといって、住民の生活を支える産業の確立はどうしても避けて通れません。そこで、精密機器やコンピュータ関連の公害のない交通立地の差のない企業誘致を行う一方、農林業をあくまで基本として、農産物の加工等で高付加価値を付ける農村工業的なあり方を目指しております(町では1.5次産業と称している。)。これは、国道197号線がまもなく、八幡浜から須崎まで一般国道として完成することからも、十分可能な方向であると思います。
 国道の整備が完了すれば、城川の交通は松山まで1.5時間、高知まで2時間となり、南予交通の中心的位置を占めるようになります。そのため、観光開発も重要です。しかし、観光はあくまでも結果として考えたい。外部の資本を招いての、新たなイベントや目玉となる施設建設ではなく、あくまでも町民が最初から関わる村作り観光を中心としたい。また著名な名所旧跡もありませんので、三滝ロッジ等の町の観光施設はできるかぎり低料金として、自然の中でリフレッシュしてもらう長期保養型の観光地を目指したいと思っています。
 山間部では、若者の流出が最大の課題ですが、魅力ある町作りが若者の定着につながると考え、町の文化性を高めたいと考えています。城川ギャラリーや将来の町民ホールの建設もその一環ですが、長野県の『お諏訪太鼓』を導入した『奥伊予太鼓』は、宗家からの皆伝も受け、海外にも出演するなどして、成功した事業の一つとなりました。
 城川で最も著名な『どろんこ祭』についても、もともとは土居地区青年団が主になったお祭りであったのですが、若者の減少でとうてい活動できなくなり、町としての働きかけを通じ、現在は地元住民の総参加で成り立っています。祭の中の牛の代かきについても、牛も使い手も少なくなっておりますが、畜産農家や闘牛をやっておられる方のボランティアのおかげで、続けていってます。その他の鹿踊り等の芸能も、もはや一地域だけの力では守れない過渡期にきております。できるかぎりの支援により、先祖が育てた伝統文化を残すことが、行政の責任であると考えています。茶堂の茅葺き屋根の修復については、今年度からは3分の2の補助を行うことにしています。」
 町内の伝統的行事や茶堂の保存については、住民の熱意とともに、町の支援が大きな力となっている。文化財保護への多大な公費支出や、過去の生活文化の保存に疑問を持つ方もいるかもしれない。しかし、とにかく伝統行事を守りたいと言うことで町全体で支援を受けた「どろんこ祭」が、町の観光の目玉にも成り、農村アメニティコンクール受賞の理由の一つにもなったことは、他の伝統文化の保存にも通じるのではなかろうか。過去の一面的な美化や懐古趣味に陥ることは避けるべきだが、伝統的生活文化の良さを知り守っていくことが、新たな地域おこしにもつながることを、城川町の調査を通じて知ることができたように思う。