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県境山間部の生活文化(平成5年度)

(1)上浮穴郡の林業

 周囲を険しい山々に囲まれた上浮穴郡は、林業が最も重要な産業であり、郡内の総土地面積72,372haのうち、林野面積の占める割合は約90%と多く(平成元年)、面積・素材生産量ともに愛媛県一の林業地帯といえる。
 その中心となっているのは、久万林業と小田林業であるが、久万町の林業は民有林がおよそ95%を占めているのに対し、小田町の場合は国有林の比率が35%と高く、各町村においても所有形態は一様ではない。久万林業における環境的な特色としては、年間平均気温が12.1℃、降水量1,990mmと林木の生育には最適の条件にあるところから、スギの良質材の産地として知られている。また山が比較的浅く、国道・県道に接続する林道が、基盤整備事業などによっていち早く開設され、里山的な山林が大半を占めている。
 藩政時代の久万山郷は、松山藩領であった。当時の松山藩は、西条・大洲・宇和島の各藩に比べて、藩有林としての人工造林による山林が少なかったといわれ、久万山郷での山地の大部分は、焼畑用地や入会採草地(村落の共有地)であった。いま藩政時代の御林山(おはやしやま)として、わずかにその名残をとどめているヒノキ林が、久万町上畑野川地域の遅越山(おそごえやま)に国有林として保存され、安政6年(1859年)植樹の記録と共に、その昔をしのぼせている(②)。
 このような人工造林が部分的にはあったとしても、久万山郷で本格的な植林が始まったのは、明治期に入ってからであり、現在の久万林業の道を開いた「井部栄範(いべしげのり)」の功績は大きい。