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わがふるさとと愛媛学Ⅶ ~平成11年度 愛媛学セミナー集録~

◇比較の視点-「ところてん学」を例に-

石原
 ところで、皆さんにお聞きしたいのですが、この町ではところてんをお食べになりますか。最近、わたしは、高知県の中土佐町へ行きました。この町も城辺と同様にカツオの町なのですが、その町のところてん屋に寄ってみますと、そこのところてんは、カツオとじゃこだしの中へ入れたものをすする食べ方なのです。この食べ方が絶対にうまいと地元の方はおっしゃる。わたしは、それを一杯買って帰りまして、家族に食べさせてみました。実は、志摩もところてんをたくさん食べる土地なのですが、その結果は、「まずまずの味」と「うまくない」とが半数ずつでした。志摩では、ところてんは、多くはお盆のときに食べます。その食べ方は、さいの目に切りまして、黄な粉にまぶすというものです。その他の食べ方としては、黒みつを掛けるものと、ところてん突きで突いて三杯酢で食べるという方法があります。
 わたしは、こうした違いがおもしろいと思います。おそらく城辺町の方は、黄な粉をまぶしたところてんをおいしいとはあまり思わないのではないでしょうか。ですが、新しい物を発見して食べてみるということは、非常に大切だと思います。お年を召した方は案外冒険心がありますが、今の若い人たちに新しい物を食べさせようとすると、食べる前に嫌と言います。これは非常に残念なことで、とにかく食べてみて、そしてその味がいいか悪いかということが分かって、初めて嫌なら嫌と言えばいいのです。
 こうしたことで、わたしはこのごろ「ところてん学」を始めておりまして、あちらこちらに行っては、その土地でのところてんの食べ方を聞いて歩いています。先日、城辺町とは反対側の弓削(ゆげ)島(越智(おち)郡弓削(ゆげ)町)へ参ったのですが、その折に聞いてみますと、弓削島ではところてんは食べないとのことでした。「それはおかしいなあ。ところてんの原料のテングサは島の周りにたくさんあるはずでしょう。」と質問しますと、弓削島では、ところてんではなくて、イギス(海藻の一種)を食べているということです。実は、テングサもイギスも種類は同じで、生えている場所が少し違うだけです。この、イギスは食べるがテングサは一杯あっても食べないというのはおもしろいですね。これがその土地の特性です。弓削島では「イギス豆腐」と言って、イギスを豆腐のようにして食べています。そして、この系列は九州の博多へつながります。そこには「おきうと」がありますね。おきうととは、エゴノリ(海藻の一種)を煮溶かして固めた食品です。
 こうしたことに興味を持っていただく。皆さんの地元では、ところてんはどうなっているのか。それが、地元以外の所ではこのように違う。では、地元の味はどれくらいの期間をかけて培われてきたものか、というようにお考えになっていただく。こうした思考の過程が、きっと皆さん方がモノというものに対して興味を持たれていくことだろうと思います。