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わがふるさとと愛媛学Ⅴ ~平成9年度 愛媛学セミナー集録~

◇〝2足のわらじ〟で奮闘-学芸員として、研究者として-

 現在は博物館の運営の仕事がありますので、休みなどを利用して、県内に限らず四国やそれ以外のところに出掛けて調査をしています。「2足のわらじ」ということで、毎日を慌ただしく過ごしております。しかし研究というのは、結局、博物館の展示にも使えますし、さらに教育普及の面とかいろいろなものにつながっており、それらの裏付けとなって、やはり大事なことです。そういうことで、なるべくフィールドに時間をかけて活動をしております。
 早速、スライドを御紹介したいと思います。

写真1
 これは、西日本最高峰の石鎚山の周辺を写したものです。撮影の時期は、平成2年10月の中旬、紅葉が最も盛んな時期でした。中央のこんもりした山が天狗岳(てんぐだけ)で、標高は1,982mです。この赤々としたものが、ナンゴクミネカエデという、高山性のカエデ科の仲間です。ここを中心とした石鎚山系が、私の調査研究のフィールドで、さっきお話しましたサンショウウオなどが源流域に生息しています。それ以外にも、植物とか岩石や昆虫など幅広く調査しています。

写真2
 これは、紅葉のころの天狗岳です。どこから撮影したかと言いますと、旧登山道からです。面河渓谷から御来光(ごらいこう)の滝、そして二の鎖、三の鎖の中間地点へ向かった時の一部です。この辺りの標高は1,800m以上です。斜面の青々とした樹木が、シコクシラべです。シラベはマツの仲間で、寒い所、特に本州の中部あたりの山岳地帯を中心に現存していますが、日本での南限が石鎚山です。下に見えるのがイブキザサです。これは、昔はイシヅチザサと言われておりました。

写真3
 今度は下のほうに降りまして、面河渓谷の、ちょうど紅葉河原(もみじがわら)辺りの景観です。白い石が特徴で、それは花こう岩です。昔、この辺りに火山があったことを物語ります。渓谷の水は非常に透き通り、周りの紅葉などが水に反射して、大変美しいです。このあたりの標高は700mくらいですので、紅葉する時期はやや遅くなり、だいたい10月下旬から11月上旬です。紅葉河原というくらいですから、モミジの種類が非常に多いところです。こういった場所の遊歩道を利用して、私は、自然観察の会を開いています。自然観察というのは、理科の勉強という堅苦しいものではなくて、気軽に自然の中を散歩するということで、親子連れなど、いろいろな方が参加されています。

写真4
 今日の会のテーマが「愛媛の景観」ですので、ここで名勝を御紹介します。これは御来光の滝です。石鎚山系の中でも、かなり大きな規模の滝です。場所は石鎚山の南面で、石鎚登山道の途中にあり、標高は約1,400mくらいです。この御来光の滝は、もう少し上があり、その上からーの滝、二の滝、そして今御覧いただいていますのが三の滝です。この三つを合わせまして、長さは101.6mくらいあります。日本の名瀑100選にも選ばれている所です。私は、毎年1回、秋ころに、仲間とこの辺りの登山を楽しみます。非常に傾斜がきつくて、ザイルなどいろいろな登山道具が必要で、往復に丸1日かかります。この滝壺(たきつぼ)には、サンショウウオが泳いでおります。それの観察などをしてきます。

写真5
 名勝のもう一つが、これです。岩が柱のように立っていますので、柱状(ちゅうじょう)尾根と言います。天狗岳からさらに東の方面へやせ尾根を伝って行くと、こういう場所があります。なんか墓場のような雰囲気をしているので、私たちは、墓場尾根と呼んでいます。石鎚山は、その名前に石がついていますように、石の山です。所々に岩肌が露出していますが、これは、今から約1,500万年前、石鎚山は火山活動をしていて、それで形成された副産物というか、岩盤です。かつてこの辺は、火山が盛んに噴火し、その結果こうした隆起をした形の岩がつくられました。

写真6
 さらにこれも名勝ですが、笹倉(さぞう)湿原という、石鎚山系でも唯一の大きな湿原です。場所は石鎚山の中腹で、金山谷(かなやまだに)から1時間半くらい登っていったところにあります。幅が30mから40mくらいで、ウマスギゴケが一面に広がっています。緑のじゅうたんという感じがしますね。梅雨の時期や大雨が降った後などは、水がかなり溜まっているのですが、普段は、水が枯れていることが多いです。

写真7
 これが、私の研究対象としているオオダイガハラサンショウウオです。体の色は黒で、体長は15cmから20cmです。愛媛県内では、標高1,000mくらいの山であれば、だいたいどこでも生息しています。山の源流域や渓流などに、ひっそりと生息しております。

写真8
 これは、背中などにぶち模様があるので、ブチサンショウウオと言います。これは、愛媛県でも発見されたケースが非常に少ないです。私は、ちょうど学生の時に、天狗岳の西側にある堂ヶ森(どうがもり)で発見しました。これも、体長は10cmから15cmでサンショウウオとしては小さいサイズのものです。

写真9
 3種類目がハコネサンショウウオです。ハコネの名前から分かるように、神奈川県の箱根町で最初に発見された種類のサンショウウオです。これも分布が限られていまして、非常にまばらにしか生息していません。その中でも、特に石鎚山系にはまとまって分布しています。それ以外では、小田深山(おだみやま)とか、重信川の上流あたりに少しいるようです。体つきは細く、背中の赤い模様が特徴です。
 以上、3種類のサンショウウオをお見せいたしましたけれども、これらは、標高の高い、そして湿気が多く暗いところに生息しています。

写真10
 これはサンショウウオの生息地の一つで、場所は久万町です。久万町は、私の父の出身地ですが、スギやヒノキが非常に多い所です。これもスギの人工林の中で、水が流れています。愛媛県内では、こういうわずかに水が流れるところにサンショウウオが生息しているのですが、森林の保水力が非常に弱いのではないかなと思います。ブナ林など、水の豊かな森林では、水が絶えず流れておりますが、人工林では、このくらいしか流れておりません。時にはかれたりするようです。

写真11
 これは、サンショウウオの卵です。1匹のメスで、一対を水中に産卵します。産卵は5月ころで、その後越冬して、翌年の夏ころに孵化(ふか)します。サンショウウオは、今から約3億年前から生き続けている動物ですが、その生命の伝達は、毎年ひっそりとした場所で行われているのです。

写真12
 これはサンショウウオの幼生です。孵化したところです。まあまあ大きいやつですね。エラが発達して、エラ呼吸をいたします。親になったら、エラが取れて、肺呼吸と皮膚呼吸とで、山の林床部で生活します。
 時間が来ておりますので、これで終わりにしたいと思います。自然観察ということに非常に興味をもっております。この後時間がありましたら、パネルディスカッションでコメントさせていただいたらと思います。ありがとうございました。