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わがふるさとと愛媛学Ⅴ ~平成9年度 愛媛学セミナー集録~

◇焼畑の教え

 最後に焼畑の教えを簡単に述べたいと思います。
 ミツマタを栽培した跡にスギを植林して、四国の山の多くはスギの山になりました。ところが木材の自由化によって値段が下がり、世話をしても日当にもならないと、山を捨てる人が続出しました。荒れたスギ林が目立つようになりました。良いスギ林は、適当な間隔があって下草が生えている、無駄な下枝が切られている、などでありますが、そういう山は大手の社有林に多いのです。
 今も山に残って静かに時の流れを見ておられる老人は、「なんで山を捨てるんだ。人間が自然に手を加えたら、最後まで面倒を見てやらなくてはならん。」と言います。焼畑なら、ほっておいたら自然の回復力が解決してくれます。また、「今のようなことをしたらいかんと思うが、どうすることもできない自分たちに腹が立つ。」とも言われます。
 天然林は、生存競争に勝ったものだから強い。当たり前のことですが、大事なことと思います。造林もそれに近づけたらよいというヒントです。そしてもう一つ、あんまり欲を出して、自然から利益を得ようとし過ぎては駄目だという教えでしょう。
 焼畑農耕は、非能率な、あるいは原始的な農業と考えられがちですが、決してそのようなものではないと思います。無農薬、無肥料、無耕と、いたって自然農法であるということです。また、自然に合わせた農業でもあります。無茶をしない限り、また自然に対する畏敬の念を失わない限り、永遠の食料確保の方法であります。
 わたしどもの食べ物の中から、ふるさとを感じるものを挙げてみなさいと言われたら、何を思い出されますか。まず、ソバでしょう。サトイモでしょう。豆腐とだんご、そしてあんもの。みな焼畑の作物なのです。日本人の、米以外の食べ物の原風景は、焼畑にあると思ったりもします。
 現在、焼畑農耕が世界的規模で見直されています。植林の前に山を焼くことや旧来の焼畑農業の良さについても、また原生林や灌木(かんぼく)草原を焼いて換金作物を作る破壊農業においてもです。
 愛媛大学農学部では、「焼畑の会」が発足しました。私も会員の一人に参加させてもらいました。若者と一緒に伐採した跡で焼畑をして、いろんなものを作ってみたいと思っています。どうも御清聴ありがとうございました。