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わがふるさとと愛媛学Ⅴ ~平成9年度 愛媛学セミナー集録~

◇伝統芸能の保存と意義

浅香
 私は、教育委員会の文化財課に勤めておりますが、郷土芸能の保存と伝承というのは、本当に難しいところがあります。悩みとしては、後継者不足があります。特に人形浄瑠璃の場合は、若い人が興味を持たないということもあるかもしれません。
 そこで教育委員会として、「阿波人形芝居伝承教室」というのを、昭和56年(1981年)から、16年続けています。その間、小、中、高校生、そして一般の方を含めて約700人の受講生が出ているわけですけれども、全員が後継者として育っているかというと、それはほんのわずかで、多くは県外で就職するということもあって、地元に定着しないといううらみがあります。
 私は、伝統芸能を保存し伝承するためには、これを上手に活用する必要があるのではないかということを考えるわけです。阿波人形浄瑠璃の伝承者は、あくまでアマチュアなわけです。だから劇場でやると、文楽と比べて技量の下手なのが目立ちます。しかし、かつて阿波では神社の境内などの農村舞台を中心に公演をしていました。現在では、犬飼(いぬかい)の農村舞台というのがありまして、そこで年1回公演されているのですが、県外客も含めて、約1,000人の観客が集まります。それは、薪能(たきぎのう)と同じで、自然の中での野趣に富んだ公演だから魅力があるのです。こうした環境を取り込んだイベントにしてはどうだろうかということ。また、周辺の文化資源と連携して、相乗効果を図るということも大事だろうと思います。
 淡路のように専用施設とか、ホールで公演する場合は、やはり技芸員のプロ化を目指して、芸術性を高めなかったら、見るに耐えるものができません。企画においても、文楽がかつて観客を動員するために、「赤毛もの」と言われる「ハムレット」だとか「椿姫」、あるいは民話ものの「赤い陣羽織」だとか、有吉佐和子の「雪狐々姿湖(ゆきはこんこんすがたのみずうみ)」を上演したように、徳島県においても、オリジナル作品や、力強い芸風を生かしたスペクタクルな作品を手がける必要があると思います。木偶の首にはガタッと落ちる「なしわり」などのような仕掛けやカラクリがあります。あるいは酒呑童子(しゅてんどうじ)のように、大きな人形もありますので、そういうものを使ったものとかに挑戦するという方法もあります。
 また、天狗久の木偶を使っている全国の人形座に呼び掛けて、「天狗久里帰り公演」というような催しをするのも一つの活用の方法と思います。阿波、淡路、おいべっさんの西宮を結ぶ人形街道を設定するなど、保存と上演のネットワークづくりを進め、しかも国際的な人形芝居の交流施設としての中核的施設をつくることも、徳島からの発信と活性化につながるのではないかと思います。
 今、徳島では財団法人阿波人形浄瑠璃振興会というものがありますので、その組織を強化し、郷土芸能の保存と伝承の役割を担っていくことが急務であると考えております。
 鬼北の文楽にしましても、一度、この緑の森の中で小屋掛けをして、他県の座と交流してみるというのも一つの方法かなという気がいたします。活用することこそが、結果として保存・伝承につながると思います。