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わがふるさとと愛媛学Ⅳ ~平成8年度 愛媛学セミナー集録~

◇馬はわが家族

 まず餌(えさ)は、毎日、朝、昼、晩と3回、自分の食事より先にやっています。主食はわらですが、それにふすま(小麦を粉にする時に出る皮のくず。)や米ぬかなどを混ぜてやります。まあ人間の食事で言うと、わらが「御飯」で、ふすまや米ぬかが「ふりかけ」といったところでしょうか。栄養のバランスも考えて、骨を太く強くするためのカルシウム剤や、塩分も少々混ぜてやります。ほかに、田のあぜ草や池の土手草、飼料用トウモロコシなど、いろいろ与えます。
 主食の稲わらは、1頭あたり年間で約2反分が必要となります。現在はコンバインで稲を刈り取る人が多くなったので、わらの確保も大変です。食事以外にも、まだまだ世話はありますが、最低月に1回は床替えが必要となります。今は、敷きわらの代わりに、大工さんからおがくずや鉋(かんな)くずを分けてもらい、敷いてやっています。この床替えがやはりきれいなものではないので、結構大変です。
 運動も適当にさせてやらないと、ストレスがたまってしまいます。最近は農道まで舗装され、運動させる場所が本当に少なくなりました。現在は、冬場は稲の取り入れが済んだ田んぼで、また、夏場は空き地と休耕田を利用しています。
 とにかく馬は生き物ですから、健康管理に一番気をつかいます。放っておいたら、草を食べ過ぎてお腹を壊しますし、草を食べるので、どうしても腹に虫がわきます。ですから、虫下しも定期的にやらないといけません。人間が髪の毛をとかすように、馬もブラッシングをして肌に虫がわかないようにしてやります。夏は、日本脳炎や気温が30℃以上になると熱射病にも注意がいります。私の家では、扇風機を回してやり、夜には蚊取り線香をたいてやります。こうして挙げてみると、「箱入り娘」もいいところ、本当に手がかかります。
 ですから馬を放って、家族全員で旅行などとてもできません。私たち夫婦がそろって出掛ける時は、子供たちに世話を頼みます。そうすると娘は、「馬だって1食抜いたって、どうこうない。死にはせん。」などとブツブツよく言っておりますが、そう言いながらも、重い餌桶を抱えて、ちゃんと餌をやってくれています。本当に家族の協力がないと、馬は飼えません。人間であれば放っておいても何か食べるだろうし、運動もするだろうし、お腹の調子が悪ければ腹が痛いと言うでしょうが、馬は本当に手がかかります。馬が好きでないとできません。
 馬を飼うことは大変ですが、馬を飼っている者にしか感じられないことや、馬から教えられることがたくさんあります。以前、私の馬のサクラが、餌を食べすぎ腸捻転になりかけて、3日3晩、寝ないで看病したことがあります。腸捻転というのは、腸がねじれてしまう病気で、これにかかると死んでしまいます。とりあえず詰まった便を出すために獣医さんに浣腸をしてもらいましたが便が出ません。そこで、無理やり水を飲ませたり、痛さのあまり座り込んでもがこうとする馬を座らせないようにするため、馬の口を引いて、夜通し歩き続けたりしました。あれは冬の本当に寒い日で、雪混じりの雨中、私はかっぱを着て、馬にも毛布とその上にナイロンをかぶせ、歩かせ続けました。お陰で馬はその後元気になりましたが、しばらくの間は家族と愛馬会会長さんのそばを離れたがらず、私の姿が見えなくなると、「ヒーン、ヒーン。」と鳴いて、私をよく探していました。今でもあの時のことを思い出し、胸が詰まります。