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わがふるさとと愛媛学Ⅲ ~平成7年度 愛媛学セミナー集録~

◇ドイツにもある藁葺民家

 写真16は、ドイツの藁葺(わらぶき)農家です。これは現在もレストランとして使っているものです。先ほどのドイツ人が驚かなかったわけは、こんなものが、黒海、バルト海沿岸に無数にあるんです。日本の茅葺きと違うのは、雨が少ないせいか、少し、葺いてある厚さが薄いぐらいで、あとは村人が全部出てきて葺くという作業とか道具などは、日本とそっくり同じでした。
 写真17は民家博物館です。60の民家を集めてきて、保存しています。オランダのほうからドイツへ来た移民の家とか、スカンジナビアのほうから来た人の家とかいうように、いろいろそれぞれのオリジナルの民家を各地から集めてきてます。1970年代に、このドイツも日本の今と同じように、民家は消えかかっていた。それを市民運動で盛り上げて復元したわけです。そしてこの庭も、ドイツの古い庭をそのままに保存して、ここで野菜や果物を作っているのです。この庭を世話する人は、ボランティアのおばあさんです。このおばあさんの庭みたいになっておりまして、ここの所長さんも、おばあさんに許可を得ないと入れない。また、大工さんを引退した人が、ボランティアで、保存の大工仕事をしています。こういうことによって、建物が生かされ、人が生かされているという、なかなか賢明な民家の保存の方策だと思います。
 さらにすごいと思うのは、大工さんの国家試験に屋根葺きがありまして、その試験の際は、この博物館の中の民家を使って試験をするんです。だからただ単に保存するということだけではなしに、考えられるいろいろな動きを、全て総合するというようにしております。もちろん昔の品種の麦を植えています。ドイツは州ごとに、こういう博物館があります。
 写真18は、先ほどの野村町の土居家の冬景色です。非常にきれいな風景です。
 まだいくらでも御紹介できるのですが、時間が参りました。このような民家が、愛媛県にはまだたくさん残っております。しかし消えつつあることも現実です。こういうのを残しながら、何か愛媛らしさというか、我々の祖先の築いたものを、どのように伝えていくかというのは、大事なことではないかと思います。
 機械でなく、人間の手と道具を使って作ったものというのは、その作った人の考え方を表しています。機械で作ったものを見せても、感動は与えませんけれども、人の知恵と手間と手で作ったものを見せれば、おそらく日本人への尊敬が得られると思います。
 最近、日本人が一番嫌いという国が増えました。その理由の一つに、日本人は、あまりに表面的なことばかりに走っているのではないか、ということが挙げられています。速さとか、便利さとか、おいしさとかいうものに対して、日本人は無抵抗な所があると思います。だから何か家でも、このごろは3日で建つ家というのがありますが、それは家づくりから考えますと、ちょっとおかしいことなのですけれども。
 今日のスライドのような民家を見ていただきますと、その良さがわかっていただけるのではないかと思います。以上です。