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わがふるさとと愛媛学Ⅲ ~平成 7年度 愛媛学セミナー集録~

◇海岸が語るもの

石井
 私が歩いている海岸線について、簡単に説明させていただきます。
 図(前ページ)の左の方に、志賀島(しかのしま)という島があります。これは金印が出た島として、皆さん御存じではないかと思います。そこからずっと歩いて、一番右(東)に芦屋(あしや)というところがあります(遠賀(おんが)川という大きな川が流れております)が、そこまで、およそ56km海岸があるわけですが、それをだいたい12kmから20kmぐらいに区切りながら、土曜とか日曜日とか祭日を使いながら、1か月半ないしは2か月で歩く。それをずっと繰り返しています。歩いてみますと、ずいぶんいろいろな物がベルトコンベアーに乗って漂着するものだなということを感じます。
 海岸を歩き始めて28年になります。漂着物、今はちょっと格好よく漂着物などと言っておりますが、実際はゴミなんです。捨てられたゴミなんですが、そんな中でも、よく見ますと、やはり、歴史や民俗もあり、あるいは動植物のいろいろな分野がある、ということを感じます。
 図には、代表的な物を挙げておりますが、一部漂着物を持って来ておりますので、実際に手を触れて、漂着物の実際や海からのロマンを感じていただければと思います。
 さて、海岸の話に返りますが、ここの海岸は、先ほど56kmと言いましたが、「広げたパラソルの縁」と言っております。長い弓状の浜と、それから突き出た岬の部分が連続する海岸線。それがちょうど、パラソルの縁の部分に似ているところから、そういう表現をされております。あるいは、長汀曲浦(ちょうていきょくほ)と言いますか、長い海岸線とそれから突き出た岩場の部分、そういうのが交互に連なって、先ほど申しましたように北西の季節風にあおられて、浜に一面打ち上がるわけです。
 どこからそんなものが流れ着いて来るのか。当然、日本のゴミもたくさんあります。日本人は「水に流す」と言いますか、汚い物や不愉快なことは、全部水に流してしまいます。そう言えば、私たちも小さい時には、よくゴミは川に持っていったりしていましたが、今もその習慣というのは変わらなくて、家から捨てられるゴミと言いますか、川の上流から捨てられるゴミもたくさんあります。
 それから、沖を航行する船からもずいぶん捨てられているようです。アメリカとかオーストラリアとか、あるいはタイとかビルマとか、そういう国名を記した物、あるいは容器のラベルからも察することができる物、これは船から捨てられた物かと思います。
 それから黒潮が出発しているフィリピンから、それが通る台湾、あるいは中国、さらに、玄界に一番近い、朝鮮半島、そういうところのものもたくさんあります。
 日本のゴミよりも、韓国の物の方が多い時などもあります。一昨年、うちの近くにある福岡教育大学に韓国から来ている留学生の方と知り合いになって、一緒に海岸を歩いてもらったのですが、彼は喜々として、「わあ、こんなに韓国の物が。」と言って、いろいろ説明してくれました。これはシャンプーとか、これはラーメンであるとか、あるいは、いろいろな生活用具のことなどを教えてもらいました。ところが、最後の方になると、だんだん暗くなって、「どうもすみません。うちのゴミがこんなに日本にまで来て。」と、ずいぶん恐縮されておられました。でも、日本のゴミは、太平洋を越えてアメリカ(西海岸)あたりに、けっこう漂着しているようです。それから、韓国をしのぐなと思うのは、台湾と、中国です。それがずいぶん漂着をしております。
 ずっと遠くなりますが、フィリピンのほうからは、皆さん方も御存じの、ヤシの実のような熱帯植物の種子などが、たくさん流れ着いています。これまでに、ヤシの実は、皮や破片も含めると、全部で660個を拾い集めました。それは大事に袋に入れて保存しておりますが、それだけあると、ちょっとした山になります。
 でも、ヤシはちょっとこだわり続けていまして、これだけは捨てられないと思っています。はるばる南の方から流れ着いたかと思うとなおさらです。むろん、ヤシは食べられるわけですから、船で食べた物を途中で捨てたとか、すぐ近所の果物店で売られたものとか(時々はヤシの実が店頭に出ていたりもしておりますし)、そういう物もあろうかと思いますが、あの島崎藤村の『椰市(やし)の実』、その話の元になった柳田国男が愛知県伊良湖(いらこ)岬で拾ったヤシの実がつい思い出されて、とうとう集めてしまいました。
 動物、海流に乗って来る、いろいろな動物もあります。これは、回遊しているのもあると思いますが、イルカであるとか、あるいはクジラであるとか。クジラの完全なものは、いませんでしたが、死体と言いますか、頭がちぎれたようなのが漂着したり、イルカはたくさん打ち上がります。打ち上がって、1、2年間、砂に埋もれていたのでしょうか、風や波に洗われて、きれいな白骨になっているようなものもあります。
 それから亀、海亀です。アカウミガメ。愛媛の海岸はどうでしょうか。四国の高知のほうや、あるいは鹿児島あたりには、アカウミガメが産卵に来ます。そのほか、アオウミガメ、タイマイと言いますか、あのベッコウ。ああいうようなものの死骸も漂着します。
 それからもう一つ、オサガメと言う、図の中央のところにも書いていますが、甲羅にちょうど縦に筋が5本ぐらい入っているんです。カワガメとも言っておりますが、それもよく流れて来ます。先日も、やはりうちの近くに1m50㎝の大きなカメの甲羅が上がっておりました。この亀が死ぬ原因は、ビニールを食べるからなんです。この亀の主食はクラゲなんですが、ちょうどビニールがクラゲに見えると言いますか、非常に似ているものですから、それを食べて詰まらせて、最後は窒息死し、浜に漂着するのです。死骸はずいぶん多いようです。いろいろ問題にもなりまして、解剖をしたところが食道にびっしりとビニールが詰まっていました。そしてそれも日本製のビニールであったというようなことでした。最近は、日本以外でも多く使用されていますので、外国からのビニールも、ずいぶん食べているのではないかと思います。
 次に生活用品ですが、これは大部分が、もう不要になって捨てられたものなんですが、海上を漂っているうちに、何かいい姿になっていて、つい拾って来たりもします。そういう物を部屋の中に飾ってみると、インテリアになり、けっこう楽しいものです。
 一度海岸を歩いてみてください。汚いゴミや、また時にはネコやイヌの死骸があったり、あるいは、草履(ぞうり)やら靴など捨てられたもろもろのものがあり、汚らしいなとお感じになると思いますが、よく見ますと、けっこういろいろ面白いもの、見たこともないようなものもあります。そんなものを拾ってみるとか、あるいは楽しんでみるとかいうようなこともできるのではないかと思います。そんなことで、1、2回、浜に行かれれば、けっこう病み付きになるのではないかと思います。


巨大なオサガメの漂着(白石浜)

巨大なオサガメの漂着(白石浜)


収蔵庫の中で漂着物に囲まれて

収蔵庫の中で漂着物に囲まれて