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わがふるさとと愛媛学Ⅱ ~平成6年度 愛媛学セミナー集録~

◇代々言い伝えられた植林法の合理性~「適地適木」~

 前半の対談講演で、松井先生がこの山村の風景・景色ということをおっしゃられていました。久万では少しわかりにくいんですが、ここから峠一つ越えた畑野川(はたのかわ)とか、国道33号を少し川下(高知方面)に下がった美川村や柳谷村のほうに行くと、よくわかると思います。
 まず山村の風景、特に中山間地では、特に一番低い所に川がある。川があって、その川の両側に沖積(ちゅうせき)層という土砂が堆積(たいせき)された土地に田んぼがあって、水田があるんです。その水田より少し高い所で水がなくなってくると、傾斜の緩やかな所が畑になり、畑がなくなって、今度は畑も作れないほど傾斜がきつくなってくると、採草地とか、草場になるわけです。そこへまた里山の薪炭林、クヌギとかナラの雑木林とか、いろんな林があって、それでもう少し奥へ入り込んで行くと、山が麓(ふもと)からてっぺんまであるとして、その麓のほうの比較的土の深い部分に、まずスギが植えられて、どんどん山を上へ登って行って、土が浅くなってくると、次にヒノキを植えます。
 もっとどんどん上へ登って行って、ヒノキが育ちにくいなという所になってくると、マツとか雑木、ここらへんで雑木と言いますと、だいたいクヌギ、ナラ、カシ、カエデとか、いろんな名前も知らないような木がたくさん生えてくるんです。そういうふうな土地利用の仕方のパターンが、昔からこの土地にはあったわけなんです。
 実際に古い人から聞いたり、自分でもそういう現場を見てみると、やはり山の高い部分に広葉樹が残っている所では、その下にあるヒノキもスギも、成長もいいです。
 変な災害も起こりにくいし、そして山頂のほうでできるマツとか、いろんな広葉樹からまた、スギとかヒノキだけの植林では取れないような材料も取れます。柔軟な林業ができるということで、やはり先程、山本さんが言われましたように、持続性と安定性のある林業をやっていくためには、やはり昔から言い伝えられてきた土地利用の仕方というもの、これは久万、上浮穴というこの土地の自然の中で生きていくための鉄則なんだなと思います。それを越えて、林業を人間の力を広げていこうとすると、いろんな災害とか、そういうものに遭うんだろうと思います。
 それで、一番短い言葉でこれを言い表そうとすると、「適地適木」という言葉があるんですけれども、実際、僕が山に入って、仕事をしてみて、昔の人は、今自分が立っている所の土の深さをどうやって見分けたんだろうかと思うぐらい、見事にスギとヒノキを植え分けています。
 実際掘ってみると、スギが植わっている所は、大変土が深いんです。そしてヒノキの所へ行くと、土の深い所もありますけれども、比較的土が痩(や)せているような所にヒノキが植わっています。
 そしてもっと痩せてくると、木が太らないような所は雑木になっていますけれども。そういった形で、昔はどういう形にすれば、安定した林業ができるか。自然とのうまい付き合い方ができるかということは、学問的にはわかっていなかったんだろうと思うんです。人間が長年の体験の知恵として、そういうルールみたいなものを自然から学んできたんだろうと思います。