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わがふるさとと愛媛学Ⅱ ~平成6年度 愛媛学セミナー集録~

◇紙の広がりは歴史とともに

 今日は、生涯学習という視点から、この地域を見つめようということでございますが、そのテーマとして「紙」を取り上げるには、非常に恵まれた地方ですし、また、それをテーマ化することによって、これからの紙の町の未来展望が出てくるのではないかと思います。
 今までは、先人、先覚者の大変な御努力にあずかって、紙産業として息せき切ってやってきた。それで、今日の経済的なレベルをキープしているわけですが、21世紀に向けて、今後もこのままの状態でこの紙の町を営々と維持発展させることができるだろうかということを考えますと、やはりこの町に、もう一つ「紙の文化的な基盤」を作らなければならないと感じております。
 たとえば、先程からいろいろと話題にのぼっている和紙。私も、和紙の歴史を少し探ってみましたら、和紙のなりわいというのには特に強い風土性がありますし、また、今盛んに言われている「地球環境時代」にあって、先進的・今日的なテーマにもピタッとフィットするような歴史がたくさん潜んでいるということがわかりました。さらに、紙漉きというのは大変古典的な産業なんだけれども、今風のハイテクとかバイオとかという先端技術の物差しで見ても、和紙の中にはそういう先進的な技術があるんです。
 こういったものを転用し、引き出すことができる「先進的な紙の町」にするためには、大変失礼な言い方ですけれども、これまでのようにただ産業基盤を造って大きな製紙工場で生産し、世界とコスト競争をするだけではだめではないかなと思うのです。企業の皆さんは、もちろん勉強なさって、いろんな未来戦略をお考えだと思います。しかし、産業のノウハウや科学技術だけではなく、やはり、次の時代の知恵とパワーになるものを、4万の市民あるいは10万の地域住民の中から、この地域の土壌として根付かせないといけないと感じております。
 日本の紙の歴史を生活文化の視点で見ると、こういう経緯がございます。
 紙を、一番最初に必要とし、また求めたのは、実は「神(かみ)様」です。神、仏から公家、そして役所、いわゆる「公用」のものに、需要が誘発されてきております。次に武家社会、それから江戸時代になって、町人の世界、庶民の文化へと、紙の需要・用途が広がっていくわけなんです。これは、非常に意味があることだと思います。
 古い時代は、紙そのものが少なく供給体制がないわけですから、紙は貴重品ですし、その用途も限定されていましたが、次第に世の中が開けて文明が展開すると、紙の供給ベースも上がりますし、商品構成も豊かになる。皆さんは御承知だと思いますが、この地区では今日どのくらいの紙の商品構成があるとお思いでしょうか。調べてみますと、何百や何千というのではないんです。数万アイテムの商品があるそうで、非常に豊かなバリエーションで、これは大変なことです。現在、紙の市場は成熟期にあると言われておりまして、ありとあらゆる隙間を埋める商品が、当地区で開発されており、日本の製紙関係や紙加工産業の中では、一番商品構成の豊かな地区になっているそうです。
 それほどに、紙の広がりというものがあるんだということを、かつての歴史のごく限られた用途から、今日の用途まで展開してきたことを思えば、非常に面白い問題が潜んでいるというふうに、私は勉強させていただきました。