データベース『えひめの記憶』
わがふるさとと愛媛学Ⅱ ~平成6年度 愛媛学セミナー集録~
◇紙との出会い(研究のきっかけ)
野村
御紹介にあずかりました野村でございます。よろしくお願いいたします。
私は、ちょうど戦中・戦後派に属する年齢でございます。小学校6年生の時に終戦となりまして、その時にタブロイド版に印刷した教科書というのが支給されました。自分で断裁して本にしたんです。あとでわかったのですが、これはいわゆる一番品質の悪い紙なんです。「戦争に負けると、こんなになるのかな。」という感じがしました。
中学校に入りました時に初めて和紙と出会ったのですが、「大変強い。同じ紙でありながら、どうしてこんなに強いんだろうか。」という疑問を持ちました。
それで大学も、当時紙をやっていたのは農学部(農芸化学)だったんですが、そちらに入りました。紙をやるために入ったわけではないんですが、たまたまそこで、特別集中講義という形で紙に関する講義も受けまして、特に手漉き和紙の講義は、「手作りで、すごいものだな。」という印象を強く感じました。私たちが卒業した時代は就職難でして、指導教官が、「お前、ここへ行け。」と言えば、「はい。」という感じで行かなければいけない。私の行った民間の会社が、たまたまパルプも作っている製紙工場でございまして、4年間ほど民間の企業で勉強をさせていただいたんです。
紙というのは、「植物繊維などを水の中で分散させ、簀(す)で漉きあげて膠着(こうちゃく)し、乾燥したもの」というふうに定義され、原理は非常に簡単なものなんです。おそらく世界で一番古い、紀元前200年ぐらいの紙が、1989年に中国で出ていますが、作り方というものは、そのころとあまり変わっていないような感じがします。
しかし、いったん紙という世界に入ってみますと、「これほど多種多様な世界は、ほかにはないな。これは難しいものだな。本当に大変な仕事をしなければいけないな。」と感じ、いろいろ勉強をしてまいりました。
会社で「見習生を命じる。」という辞令書をもらい、最初に現場へ入った時に体験を通してたたき込まれたことは、「紙の善し悪(あ)しは、原料もさることながら、原料の処理の仕方で決まるんだ。」ということで、やはり製紙というのは体験工学であるということを、本当に身をもって感じた次第です。
この会社を経たのちに紙業試験場に入り、それ以来、紙の研究一筋にやってまいりました。手漉き和紙の研究の部分もありましたが、どちらかと言うと、最先端のいわゆるハイテクに利用される紙の研究のほうにどうしても目が向いて、それを一生懸命やってまいりました。「温故知新」という言葉がございますが、紙業試験場を卒業して、今の職場へ来て初めて、それをつくづく感じたという次第でございます。