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宇和海と生活文化(平成4年度)

(5)地蔵盆

 「文化の集積地」らしい祭りを、**さんに教えてもらった。三机の中でも風評のあった危険なところなどには地蔵様が祀られている。その数は数十にのぼり、それぞれにいわれがある。「庄屋さんが年に一度、地蔵様を庄屋屋敷に集めて、供養していたらしいんです。もとの庄屋屋敷跡が現在の町民センターですから、今では町民センター近くの荷揚げ場で行っています。30体以上のお地蔵さんを青年団が集めて来て、婦人会が前垂れを新調して、供養の念仏を唱えるんです。」という。地蔵盆というこの習わしは、以前は8月24日のウラ盆に行われていたが、過疎の進行で町を離れた人が多く、年に一度の帰省に合わせて8月16日、盆踊りの翌日に行われるようになったそうだ。
 地蔵盆の当日、昼過ぎに現地についたときには、25体の地蔵はすでに町内各地から集められ、婦人会の人たちが、新調したばかりの前垂れをつけていたところであった。広場に並んだ地蔵は圧巻である。夕方になり、多少暑さがやわらいだころ、91歳の**さんが念仏を唱え始め、他の女性たちもそれに合わせて唱え始めた。ぽつりぽつりと見える男たちは、荷揚げ場の端で、波音を聞きながら所在なさそうに、そのあとの地蔵盆踊りが始まるのを待っていた。
 踊りの太鼓をたたく**さん(大正5年生まれ 76歳)に聞くと、「以前は、月に1、2回くらいはいろいろな行事があったもんです。1日にはおついたち、15日にはおこしん(庚申)さんといったふうに。いまは、祭りと言っても以前ほどは盛り上がらなくなりましたねえ。」といって、櫓に上がっていった。
 **さんは、最近は地蔵盆には行かないという。どうしてなのか尋ねると、「最近の踊りは、どこでも同じでしょう。子供のころに踊った三机独自のいい踊りをやったらええのになあと思うのですが。伝統的な遊びや行事がすたれていくのは寂しいものです。これでは故郷を忘れてしまいます。三机人間の短所として『楽をして儲けてやろう』というところがあります。これがわざわいして、『自分たちがなんとかして、町に活気を取り戻そう』という前向きの姿勢があまり見られません。年寄りも、『毎日退屈だ、世の中が悪い』といった不平不満ばかり言ってますが、国からお小遣いはもらえるし、町民センターにいけば電気(マッサージ)にかかれるし、テレビが自分たちの相手もしてもらえる。昔を考えたら、良すぎます。年寄りも、中高年といっしょに知恵をだして、若い人が落ち着くような町に変えていかないといけません。非常に文化的で人情味にあふれていた三机のにぎわいを、もう一度取り戻せたらいいなあと思うのです。」と、三机の将来の希望を語った。