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宇和海と生活文化(平成4年度)

(1)台風銀座

 「宇和旧記(⑪)」の中に、佐田岬沿岸海域の風と潮汐に関する記録がある。風については、

   1.佐田より出船する船は、南風(まじ)ひらき(南風で帆は横帆)、御はな廻り申(もうす)時は眞帆(*20)になり、廻
    り候 (そうろうて)上(かみ)へ参(まいり)候時は、又ひらきなり。
   1.佐田より眞帆は東風(こち)なり、是には豊後(ぶんご)内ならでは、まいられざる也。
   1.下(しも)より参る船は、南風眞帆、是も御はな廻りてひらきなり。
   1.二問津(二名津)よりも上よりも参る船は、御はな迄北風(きた)眞帆なり、佐田へも宇和じまへも参る時は、ひらき
    のよし。

とあって、佐田-佐田岬-二名津間を走る帆船の風向と帆の張り方を述べている。参勤交代の宇和島藩主も、潮流が早く風の強い岬回りを避けて、塩成・佐田・串から陸路を瀬戸内側へ越えたことも度々あった。

 ア 昭和以降の主な台風

 台風が西寄りの進路をとると佐田岬半島を通ることが多く、風を遮る高い山がないこの半島は昔から台風銀座と呼ばれている。
 三崎町誌(②)によると、「台風は地震よりも度々訪れ、とくに台風銀座といわれる豊後水道に近い岬半島は海岸・家屋・果樹園の被害が大きかった。台風の大きいときには高潮も伴うので海岸近くの住民は注意が必要でありまた出漁に当たっては気象の情報に注意が肝要である」と注意を促している。

 イ 岬端部の自然災害

 三崎町誌(②)の災害記録等に見られるとおり、三崎町の自然災害は極めて多い。災害のなかった年が少なく、この32年の間にわずか7年しかない。しかも、自然災害が複合してこの地域を襲った年が4回ある。前述の南海大地震(昭和21年〔1946年〕)、町内1,100戸が浸水した台風18号(昭和49年〔1974年〕)の大災害を乗り越え、平均して4年に一度は襲来する自然災害を克服してきた人々の生きざまはまことにしたたかであるといわざるを得ない。風波に耐え七転八起の生きる姿に学ぶことの何と多いことか。

 ウ HIC28 チャンネル

 HIC(八西地域総合情報センター)は伊方町川永田にある。岬13里といわれる佐田岬半島の根元近くである。半島の頂上線メロディーラインの道路に面した近代的な4階建の白いビルを基地として1市5町(八幡浜市・西宇和郡三崎町・瀬戸町・伊方町・保内町及び三瓶町)へ情報が発信されている。事務局は建物の2階にある。
 **事務局長さん(八幡浜市)、**次長さん(伊方町)に来意を告げ、いろいろ教えを請う。第三セクター方式のHICへはそれぞれの市町から職員が出向して運営している。
 今回依頼した気象情報については伊方町を除く1市4町にサブセンターが設置され、気象ロボットから伊方町の共同センターへ送信されてくる。
 共同センターでは気象衛星(ひまわり)からの映像と組み合わせ、自主番組を構成して28チャンネルで流している。
 主席研究員の**さん(三崎町出身)にデータを依頼し、局長さん・次長さんと懐かしい八西地域(八幡浜市・西宇和郡)の話に、30分という時間はあっという間であった。その間何度か局長さんは電話の応待に席をはずされたが、僅か30分の間に1年分の気象データが打ち出されてきた。
 時間帯をセットして、毎日地域の気象情報が流れてくる八西地域は農業(特にかんきつ)と漁業の盛んな第一次産業地帯であるから、どれほど役に立っているか計り知れない。
 平成3年6月にオープンしたHICでは現在テレビ15チャンネル・ラジオ4チャンネル合計19チャンネルでサービスを行っているが、将来は通信衛星を介して送られてくる番組を取り入れながら、パソコン通信やホームショッピングなどのサービスが受けられるようにしたいと張り切っている。

 エ 三崎は三瓶の2倍吹く

 10月29日にHICを訪問したときには、既に9月の気象データは整理されていたので昨年の10月から今年の9月までの1年分を入手することができた。季節を昨年の秋から始めて、秋・冬・春・夏と並べるのが妥当であるが、ここでは四季の順序にしている。1年366日の風向を3か月ごとに集計して風向ヒン度(%)を示し、最大瞬間風速10m/s以上の回数を集計して強い風の風向とし風配図を作った(図表1-1-12、図表1-1-13参照)。
 三崎町では四季を通じて東南東の風が卓越している。春と秋は39%、冬44%、夏では51%を示す。風が強い三崎町でも夏の突風(東南東及び西ともに6回)と穏やかな日が多い。そのほかは西風及び北西風の強風が増えて冬の西風(にし)は17回を記録している。夏から秋にかけて、台風の多い季節には南からの強風(南南西及び南西)が吹いてくる。
 三崎の東南東の風に対して、三瓶では東北東の風が卓越している。春61%、夏55%、秋74%、冬62%と顕著である。最大瞬間風速が10m/sを越える突風は、冬から春にかけて東北東から吹きつける(冬17回、春15回)。夏から秋にかけての南寄りの強風は三崎と比べて少ない。
 年間を通してみると、366日のうち三瓶で117回の強い突風があったのに対して三崎では206回と多く1.8倍である。三崎の風は三瓶の2倍吹くといえよう。しかも三崎は東を除いてどこからも強い突風がくる。


*20 追風を真帆という。

図表1-1-12 三崎の風

図表1-1-12 三崎の風

HIC(八西地域総合情報センター)資料より作図。

図表1-1-13 三瓶の風

図表1-1-13 三瓶の風

HIC(八西地域総合情報センター)資料より作図。