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愛媛学のすすめ

4 地元学講座の実施例

 地元学講座は「宮城野区民ふるさと創生事業実行委員会」、宮城野区役所と区内市民センター(公民館、6館)が主催し、仙台市社会学級研究会宮城野ブロックと仙台市歴史民俗資料館の協力を得て実施しているもので、この講座は地元学の考え方、実践する方法(調査取材の仕方、その結果のまとめ方)の講義を受けて、受講者自身が自分の住む地域の特色を探り愛着を深めるために、歴史、自然、生活などを調査取材し、報告書にまとめる講座です。地元学という道具を実際に使ってみる講座とも言えるでしょう。地元学の目的である町と人、人と人との新しい出会い、つながりを持てるようになり、それが地域コミュニティの活性化とこれからの町づくりのきっかけになることを目指しています。
 平成2年度から今年度まで6地区で実施していますが、今年度の「西山・燕沢」「新田」の2地区を例にとって地元学講座の実施例をご紹介します。

(1)開講式まで

 講座の対象地区を決めるところから講座の企画がスタート。まず候補地をリストアップして、その中から地域的なバランスや、地区の特色等を考えて地区を決めます。2・3年度の地区が商業を中心とした所と自然を中心とした所だったので、それ以外の特色を持つ地域を選ぶことにし、今回の「西山・燕沢」「新田(しんでん)」地区に決定しました。
 「西山・燕沢」地区は、東街道(奥州街道)沿いにあり、横穴古墳や平安時代の遺跡、弘安の役の蒙古兵に由来する蒙古の碑、伊達政宗の孫にあたる三代藩主伊達綱宗の墓所である善応寺、比丘尼伝説の残る比丘尼坂など数多くの名所旧跡がある地区。
 「新田」地区は、田んぼや畑がまだ残り、土地区画整理事業で出来た住宅と混在する地区です。
 対象地区が決まると次は講師等の人選をして内諾をもらい、大まかなスケジュール・募集方法、運営方法等の基本方針案を決め企画委員会(委員は講師、助言者、講座受講経験者、区内市民センター館長等)の意見を聞いて講座開催要項を作成します。今回の講師は仙台にある広告企画会社の社長でこれまで様々な地域おこし等に係わってきた結城登美雄さんにお願いし、助言者として仙台市社会学級研究会の太田比呂子さん、仙台市歴史民俗資料館学芸員の熊谷幹男さんにお願いしました。
 こうして企画が固まると、対象地区の連合町内会長さんや社会学級の方をお呼びして、講師・助言者を交えて講座の運営の協力をお願いしたり、その地区の古老の方を紹介してもらい、地元学についての簡単なガイダンスをします。講座を開く場所(町内会の集会所、コミュニティセンター等)の借用や、事前のPRをお願いする訳です。
 これが、終わると受講者募集の準備に入ります。募集人員は両地区50名。募集の方法は受講者募集のチラシを作成し、対象地区の町内会長さん方にお願いして各家庭を回覧してもらう方法と、市政だより宮城野区版に募集案内を掲載する方法をとっています。募集のチラシと一緒に地元学講座の取材調査への協力を依頼する文書も回覧してもらっています。
 募集期間は、8月18日から25日の1週間。受講申込み者数は、「西山・燕沢」が32名、「新田」地区が37名、年齢構成は70歳代の方から30歳代の方までほぼ万遍なくばらついています。日中の講座なので、男性は定年退職した方、女性は主婦の方がほとんどで、住んでいる場所は、両地区ともその地区内に住んでいる方が多く、生まれてからずっと住んでいる方もいました。
 企画を始めたのが5月下旬、ここまで3か月かかりました。

(2)講座開講

 開講式は、9月8日に両地区合同で区役所で行いました。開講式の後、オリエンテーションを行い、これからどんな事をするのか、今後の日程等を説明。そして講師の結城さんが「地元学とは」という題でスライドを使って地元学の考え方について講義し、1回目を終了しました。

(3)まちを歩く

 2回目の講座は「まちを歩く」をテーマに地区ごとに、場所は「西山・燕沢」が燕沢コミュニティセンターで9月16日に、「新田」が新田コミュニティセンター(最終報告会・閉講式以外は全部この場所で開催)で9月18日に開催(2回目以降は地区ごとに開催)しました。どちらもその地区の中にある場所です。
 今回はテーマのとおり実際にまちを歩いてみようという訳です。
 外に出る前に、明治40年から現在までの10年刻み位の地図をテキストにしての地図の使い方について助言者の太田さんの説明がありました。明治から現在までの地図を年代を追って見ると、まちが変わっていく様子が良く分かる。集落が段々大きくなっていく様子や、新しく出来た道、昔から変わらぬ道、沼や田んぼや畑、そういった事を参考にして調査する地域を歩いてみると、今までと違った見方ができるだろう。以上が要約したものです。
 講義が終わると、まちを歩きに出発です。
 歩くコースは事前に地元の方の話を聞いたりして、ゆっくり歩いて1時間位のコースを決めていました。歩いている間の先生は、受講者です。地元に永く住んでいて、地元に詳しい受講者に先生をお願いして歩いて行きます。講師も助言者も生徒になって先生の話を聞きながらあとをついていきます。民俗学とか歴史学とかの学問的な興味で見るのではなくて、そこに住んでいる人が、ゆっくりゆっくりして見なければ見えないものを見ることが地元学。車で通れば10分もかからない距離を歩きましたが、車にのっていたら絶対に見ることの出来ないものを沢山見ることができました。
 「西山・燕沢」はコミュニティセンターを出発点として、東街道を仙台の方に歩いて行き、終点は善応寺。途中にはカトリック墓地、比丘尼塚跡、比丘尼坂等があり先生の話、比丘尼坂では辻標の前のお宅の方に出て来てもらって話を聞いたりしながら、善応寺まで1時間の予定を大分オーバーして到着。思わぬ収穫として、大拙庵という尼寺を発見、といってもその近所の人は知っている場所なのですけれど。住職さんは不在だったのですが皆で階段を登って一寸小高い所にある境内を見学。境内の中に入るとそこだけ時間が止まっているような感じで、誰かがここをこのまま料亭にでもしたらはやるだろうなと、一寸不謹慎なことを言ったのですが、皆でそうだねと納得してしまうような魅力的な場所でした。こんな、わくわくするような楽しい出会いが地元学なんです。
 「新田」はコミュニティセンターを出発して、地元の人が新田本町と呼んでいた所を通ってコミュニティセンターに戻ってくるコース。途中に宮城電鉄(現在はJR仙石線)の新田駅跡、大山神社等があるということは、事前に分かっていたのですが、実際に歩いてみると出羽三山信仰の湯殿山石碑があったり、大山神社に行ってみたら大日堂となっていて、明治の神仏混淆の禁止で大山神社になったとのことで、境内には弁財天や南無阿弥陀仏と彫ってある石碑があったりで、皆な先生の話を熱心に聞いていました。新田本町は立派な笠門のある家が狭い道の両側にある所。笠門に貼ってある木札を見つけてそれが何か先生に聞いている人、あっちの家の屋根の上にあるのは何だとその家に行き、ちゃっかりその家の人から話を聞いている人、それぞれの興味でまちを歩きました。
 地元学の初めの一歩は、まちをゆっくり歩くこと。当たり前に思っていたこと、些細なこと、例えば門に貼ってあった木札とか、今まで見過ごしていたことを探しにいくこと。新しく出来た住宅街や団地なんかは、歩いてみたところで同じような建売住宅やアパートしかないし、何も見つからないのでは、と思うかもしれませんが、一夜にして突然住宅街や団地になったのではなく、人が暮らしている場所には、たとえ1年でも歴史というか生活の痕跡があるはずです。

(4)調査取材の方法

 3回目の講座は、地区の今昔と前回まちを歩いて見つけて興味を持ったもの、まちの歴史、生活を調査取材するにはどんな方法があるのか等の講義とグループ分けでした。
 まず、助言者の熊谷さんが地区の今昔と題して地域の歴史、概況を説明。その後、太田さんが調査取材の方法についての話をしました。
 地元学の調査取材の基本は聞き取り調査。聞き取り調査の際に大切なことは、その家の歴史もさることながら、主婦を対象とした1日の生活サイクルや近所の暮らしの変化、また職業の変遷など「さもないこと」を聞き出すこと。例えば、買い物はどこに行っていたのか、子供の頃何をして遊んでいたのか、燃料は何を使っていたのか、そういったことを聞き手の興味で聞いてメモしていく。難しい話は聞かないこと。茶飲み話、世間話の延長で十分。また、昔の写真を活用するとよい、調査に行った家に古いアルバムがあればお願いして見せてもらう。昔の写真を見ながら話を聞くとイメージが膨らんで、忘れていた記憶も思いだすこともある。それともう一つこの事ならあの人が詳しい、これはあの人なら知っている、そんな人を紹介してもらいネットワークを広げていくことも大切。
 文献を調べてみてもよい。例えば「陸前国宮城郡地誌」という明治14年編の地誌がある。それには、燕沢村なら燕沢村のその当時の区域、地勢、人口、山、川、道路、神社、古跡等の情報が載っていて、地図もついている。こういう情報とか地図を参考にする。
 石碑があったら拓本を取ってみる。拓本が無理だったら写真を取る。誰が何の為に建てたのか調べてみる。それを参考に話を聞きにいく。
 自分たちが調査した場所の地図を作る。現在の地図、聞いて来た話を基にして昔の地図を作る。
 以上が、調査取材についての話を要約したものです。
 その後、調査するグループ分けをして3回目の講座を終了。「西山・燕沢」は調査する内容で文化財を中心に調べるグループと生活史を中心に調べるグループに分かれ、「新田」は調査する区域でグループに分かれました。

(5)調査取材開始から閉講式まで

 前回の講座で分かれたグループ毎にこれからの調査計画を立てる、これが4回目の講座の内容です。講座が始まって1か月、これからは講義ではなくて実際の調査取材に入ります。助言者のアドバイスを受けながら調査の日程、場所を決め、拓本取り等技術の要ることや対外交渉はこちらで(主催者側)でバックアップするがそれ以外は自分達だけでするということでいよいよ調査取材開始です。
 中間報告は調査取材を開始してから1か月後に開催しました。今まで調査した内容、調査先等を発表してもらい、調査方法やまとめ方のアドバイスを受けるのが目的です。
 例えば石碑の拓本を取ってみたら繭と読めるような字があったという報告があれば、「この辺では昔蚕を飼っていたかも知れない、桑の木があるかも知れないので探してみては。」調査取材した事をどうやって文章にしたらいいか分からないということであれば、「まとめる時は調査取材した事をうまく書こうと思わずに、箇条書きでまとめた方がよい。」等のアドバイスを受け、最終報告を目指して調査取材を続けます。
 最終報告は12月8日、両地区合同で開催しました。各グループから報告書が出そろいグループ毎に代表から報告書の説明があり、講評、そして閉講式と進み4年度の地元学講座は終了しました。

(6)報告集・小冊子

 各グループの報告書を地区ごとにまとめ受講者の感想をつけて地元学講座報告集となります。この報告集が「町の物語」です。たずねる人も、たずねられる人も、それぞれの考えや思いがあり、一つの物事でも、関わる人の数だけ色々な捉え方があり、思い違いや反対の捉え方をしている場合もあります。それを否定や統一するのではなく、そういう色々な考え、思いが町の物語を構成していると考え、報告書は誤字脱字だけを直してそれ以外はそのまま報告集にまとめています。
 報告集は受講者と取材に協力頂いた方にさしあげる分だけの限定印刷のため部数が限られています。そのため地元学講座報告集をもとにして、「町の物語」を子供達や一般の人達にも広く知ってもらうため、伝えるために、ふるさと創生事業実行委員会で編集し直して小冊子を作成しています。2年度の「榴岡公園」「原町本通り」3年度の「鉄砲町・二十人町」「枡江」と今まで4冊の小冊子が出来上がっています。今年度の「西山・燕沢」「新田」も現在編集中で3月中頃に出来上がる予定です。1冊300円で頒布していますが、地元新聞等にも取り上げられ人気が高く、昨年4月から12月までで1,600冊が売れ、「榴岡公園」「原町本通り」は在庫が無くなってしまった程です。
 講座で調査取材した結果が最終的に報告集・小冊子にまとめられるのですが、それで「町の物語」が終わるのではなく、これからも「町の物語」は町と人を主人公にして続いていきます。この報告集・小冊子により、地元の人達が町についての思いを語り合ったり、新しいコミュニケーションの輪が広がっていくことを願っています。