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愛媛学のすすめ

3 「山形学」の現況と問題点

 「山形学」関連活動としては、現在、生涯学習センターの講座として、「山形」という地域をとりあげた広領域的テーマの講座開催が主たるものである。
 山形県は、生涯学習センターと県立図書館とを、「遊学館」という新しい建物に収め、両者を有機的に連係させた生涯学習の拠点として、1990年度にオープンさせた。この遊学館を中心に、「学遊大学」として「近未来講座」、「子どもと家庭講座」など多くの講座、フォーラム、セミナーなどが開かれているが、「山形学」講座は、「学遊大学」のなかでも、個性的な魅力溢れるいわば看板講座としての期待を集めてスタートした。
 この「山形学」講座では、諸分野を横断的に結び付けた大テーマを設定し、年間を二分した前後期の各セメスターに、それぞれ1テーマを標準6回、11コマ(うち1回1コマはフィールドワークで長い時間をとる)を用意した。
 これまでに行った講座一覧と、これらの中から2つを例とした内容とを、付表に示した。
 広域的なテーマは、関連する分野を次のようにくくり、一つの講座にこれらの全てが含まれるようになっている。

分野A:〝だいち〟と〝いのち〟
      自然科学、特に地球科学と生物科学を中心とした分野

分野B:〝れきし〟と〝くらし〟
      人文科学、特に歴史学、民俗学、方言学、及び生活科学を中心とした分野

分野C:〝みやび〟と〝あそび〟
      芸術文化領域を中心とした分野(宗教やスポーツなどの分野も含む)

分野D:〝たくみ〟と〝のぞみ〟
      社会科学全般、工学・農学など応用科学を中心とした分野(いわゆる未来学的なものも含む)

 1テーマは4分野のバランスのとれたものが望ましい(テーマにより、なかなか理想どおりには組みにくいものもあるが…)。
 このような広領域的テーマの講座は、既成の学問の枠組み内での講座とは大きく異なる。学際的な地域研究を進めつつ、これを生涯学習の場に取り入れるという試みは先行するモデルが皆無に等しかったので、はじめから完全な体系化はできなかったが、〝やわらか〟で〝しなやか〟な構造のフレームを設定して、フィードバックを行いつつ〝歩みつつ考え〟て手探りで3年が経過した。
 また、この表でわかるように「山形学」の学習手法も多様にしてある。
 従来この種の「講座」においては講義形式のみで、受講者は受動的な立場のみに立つものが多いが、「山形学」では、演習形式もまじえ、さらにワークショップやフィールドワークなどの実習的なものも組み込むものとした(また、時に公開シンポジウムをも行って、開いた「山形学」への努力もしている。)。1つの大テーマを構成する11回の内訳は、講義6回、演習2回、ワークショップ2回、フィールドワーク1回程度をそれぞれメドとしている。すなわち4分野と4講義等形態との組み合わせとなるわけである。
 おおむね一つの大テーマの初回に全体の狙いをまとめた総論的・イントロ的な講義を配し、最終回に受講者の報告なども組み込んだ「まとめ」のワークショップを設定する形としている。
 「山形学」は、講座として発足してから、すでに3ケ年を経過しようとしている。講座としては、生涯学習センターの数多い講座中、最も多くの受講希望者を得た人気講座の一つであり、定員オーバーのため受講を謝絶することもあるほどであった。アンケートなどによれば、受講者からみた評価もかなり高いという。その点では当初の予想を超える順調な草創期であった。
 雨にたたかれながら峠をめざして歩いたフィールドワークや、自分の手で紅花染めをやったり、地酒を味わったりしたワークショップなど、様々な思い出を受講者の胸に刻んで、「山形学」講座は、確実に定着しつつあるといえよう。
 また、県庁所在地周辺以外でも受講できるようにして欲しいとの要望に応えて、1992年度からは、県内各地での開講を進めることとし、同年度には新庄市において開講した。
 「山形学」のこれまでの6テーマの講座は、地元の民放によって山形県広報テレビ番組「テレビ遊学館」として、21本(1本は15分番組4回からなる)放映され、これも開かれた「山形学」づくりに役立っている。
 なお、関連講座として、「山形人国記リレー講演」というシリーズもあり、これにも「山形学」講座の名を冠しているが、これまた好評であるという。
 しかしながら、まだ多くの問題点をも抱えていることも確かである。それらのうち、早急に対応を考えるべきものは、次の3点であろう。

 問題点①
 講座のみの「山形学」にとどまりがちであり、講座は熱心な受講者に支えられているものの、広く県民に受け入れられる「山形学」には程遠いこと。

 問題点②
 その講座も、講師側の「話しっぱなし」、受講者側の「聞きっぱなし」になりがちで、さらなる深化が難しいこと。

 問題点③
 多様なアプローチは一応の成功はあったが、個々の興味深いトピックスの寄せ集めから、「科学としての『山形学』」の総合ないし統合への発展に至るには、まだ越えねばならないハードルが多いこと。