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愛媛学のすすめ

『愛媛学』ことはじめ

 われわれは生まれ育った土地を郷土と呼び、その自然や歴史を学ぶことによって、日々の暮らしの知恵を得てきた。まもなく21世紀を迎えようとし、戦後、著しい変革をとげた郷土の姿をいま一度見つめ直し、後世に伝うべきものを、しっかりと守り通すべき時に直面している。従来の郷土学を発展させ、地域に根ざした「新しい郷土学」を作り出す試みが各地で見られるようになったのは、このような時代の要請によるもので、『愛媛学』も、その流れに沿うものといえよう。
 この新しい「郷土学」では、地域の概念を「生まれ育った土地=郷土」から「生活している土地=住所」に拡大し、学習の対象を歴史・伝統・芸能・民俗といった「文化的なもの」とともに、山や海・植物や動物・気象の変化といった「自然的なもの」をも包含するよう拡充されねばならないであろう。こうした理由から、郷土と言う言葉は、自然的意味合いの濃い風土と言う呼び名に置き換えられ、さらに、その学習にさいしては、「郷土を学ぶ」のではなく、「郷土から学ぶ」という、主客を転倒した学習態度が求められるであろう。『愛媛学』、あるいは、『愛媛風土学』とは、愛媛の風土から、そこに住む人々の生活を豊かにするものを、体得する学習であるとされよう。
 それでは、この新しい『愛媛学』はどのようにして構築されるであろうか。
 上に述べたように、ややもすれば人文科学中心であった従来の「郷土学」を改め、自然科学分野を幅広く取り入れるため、その方面の専門家の参加を求め、愛媛の自然についての十分な理解が得られるような学習体系が検討されねばならないであろう。
 さらに必要なことは、少なくとも、10か年くらいの長期的学習計画をたてることである。なぜ、このような長期的な計画・展望が必要かといえば、『愛媛学』は実践の積み重ねの上にこそ、はじめて成り立つからで、逆にいえば、先に理論・体系があってはならないのである。「民俗学」の手法は応用しても、理論を借用すれば独自性を見失うことになる。
 実践の場は、小・中学校などの郷土研究部はもちろん、各地の生涯学習センター、ことに公民館を中心とした老人学級を活用し、その地域ごとに学習計画をたてることが望ましい。とくに、戦前・戦後の変革を身をもって体験してきた老人に積極的に参加してもらえるような地域ごとの学習が最優先的に配慮されるべきで、このことによって、郷土の遺産は正しく後世に伝えられるであろう。