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えひめ、女性の生活誌(平成20年度)

(1)正月と女性

 保内町の皆さんは女性の正月について、次のように話す。
 「元日は『女が早く起きて朝からバタバタするな。』といわれました。旦那(だんな)さんが若水をくんで正月は始まりますが、元日に女性は何もしなくてよかったのです。その代わり前日(大晦日)までにちゃんとお節料理などを作っておく必要がありました。また、元旦に引き出しを開けたら年中引き出しを開けなければならないと言われ、引き出しは開けてはいけないとされました。
 私(**さん)は子どものとき、正月になると母は何もせず、父やおじいさんが家事をしていたのでなぜか聞いたことがあります。おじいさんは、『一番大事な人は、元旦に休ませてあげんといかん。一年中働いているので元旦だけでも休ませてあげないといけない。』と答えました。また商売をしている家では、正月の朝、主婦は何もしたらいけない、『元旦から女がさわさわするな。』という話も聞きました。ところが嫁ぎ先では元旦から女が家事をします。家により多少の違いはあり、理由も違うのですが、一般的には女性は元旦にあまり動かなくてもよかったようです。いずれにしても2日からは普段通り家事全般をしなければなりませんでした。
 取りようによっては、女は穢(けが)れたものだから神聖な元日の朝は動いてはいけないとされたのかもしれません。『おめでとうございます。』と年始のあいさつに行くのも、『男の人が最初に戸を開けて入ってきたところは一年中縁起がよい、女が来たらよくない。』と私らは言われました。だから年始のあいさつに行きたくても、『正月から女はバタバタ出歩くものではない、男の人が来るのを待ちなさい。』とよく言われました。2日にする仕事始めなども男がやっていました。」と話す。
 松野町の**さんは、「この辺では、正月から女性も忙しく働いていました。妊娠して迎える正月、最初に男の人が年始に来たら男の赤ちゃんが生まれる。女の人が来たら女の赤ちゃんが生まれると聞いたことがあります。」と話す。
 神様をお迎えした新年に台所を騒がせてはいけない、火の神である荒神(こうじん)さんを怒らせてはいけないなどの理由で、正月には台所仕事をしないという平安時代後期からの風習は全国的に見られたが、実際は年中忙しい女性を正月くらいは休ませるという意味合いもあった。また新年最初の訪問者に縁起をかついで、女性の訪問を忌む風は全国的に多かったという(⑬)。