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えひめ、その住まいとくらし(平成17年度)

(1)古民家の保存と再生②

 現在使用している宿は、玄関(写真3-32参照)の右側に玄関の間と廻り縁のある座敷があり、座敷には1間の床の間と書院、押入れがあります。玄関の奥の広い畳の間は宿泊客の食事部屋に使用し、左側は土間を改築したいろりのある板の間(写真3-33参照)と厨房になっています。浴場とトイレは外側に新たに作られました。
 2階は屋根裏を改築した客室が3部屋あります。大きくどっしりした柱や梁(はり)などがあって、落ち着いた雰囲気があります。しかし中2階を改造したため鴨居(かもい)が低く、部屋へ入るときには屈(かが)んで入らなければ頭を打ってしまいます。
 古い農家の間取りなどを残しながら、お客さんが落ち着いて心を休めることができるように、明かりは電球を使用して照度を落としています。座敷は電球を竹ひごで丸く覆い、和紙を貼(は)って和室にマッチするようにしています。また梁や柱も黒い塗料を塗ったり、戸棚やタンスなどは農家にあった古いものを譲り受けて飾っています。お客さんに居心地よく泊まっていただいたり、家族や仲間とともに二度、三度と訪れていただけるよう心掛けています。
 宿の宿泊定員は全部で12名ですが、70~75%は県外からのお客さんで、遠くは千葉県や京都府からのお客さんもいます。またアメリカ・ドイツ・イタリア・オランダ・オーストラリアなどの外国人も旅行の取次店の紹介などでやってきます。
 石畳地区は村並み保存運動の中心地として、農村の文化や景観にこだわった地域づくりを展開しており、地区の人々は水車や屋根つき橋の管理、ホタルの保護活動、棚田の復元などに取り組んでいます。
 都会からやって来る人たちは、せせらぎや水車の音を聞き、トリやセミ、カエルの鳴き声を耳にし、棚田風景や光を放ちながら飛び交うホタルを見て、安らぎを覚え、心が癒(いや)されるといいます。リピーターに支えられていますが、一度訪れた人は次には家族や友人などを伴って来てくれます。特に高速道路の開通(平成12年)により、家族やグループ利用の増加が目立つようになりました。
 お客さんがあると四季折々の料理を作り、真心を込めてもてなすようにしています。料理は地元の冠婚葬祭に出していたものをアレンジし、旬の材料を使った天ぷらやアマゴの塩焼き、煮しめ、和(あ)え物などを出しています。
 宿を始めたころは、『こんな田舎にお客さんがきてくれるわけがない。』と地域の人はみんな思っていました。しかし予想していたよりはるかに多くのお客さんがおいでになり、地域の人の考え方も変わりました。昨年は宿泊者1,311人、食事利用者数681人でしたが、今年も昨年以上の人が利用してほしいと願っています。お世話をしている私たちもお客さんに喜んでもらえるのが嬉(うれ)しくて、毎日に張りがあります。
 また、宿の隣には修復したカヤ葺(ぶ)きの民家があり、農家の昔の様子を探ることができます。今ではあまり見ることができなくなった太い大黒柱や大きな梁などがあります。広い土間の隅には炊事場があり、板の間にはいろりが作られています。平成4年に復元したのですが雨漏(あまも)りをしだしたので、屋根の葺き替えをしなければなりません。400~500万円かかるそうです。その横には昨年改築した白壁の蔵もあります。古い民家や蔵を見学することにより、屋敷取りや間取り、人々のくらしなどを知ることができ、子どもの体験学習にもなるのではないでしょうか。」
 平成17年9月4日(日)、石畳地区において、「棚田イベント in 内子『棚田の里の農村体験』」が、愛媛県主催で開催された。雨にもかかわらず、37組ほどの子どもと保護者が参加した。このイベントは、石畳地区の棚田がすばらしい景観や農村自然環境を有しているため、その保全や次世代の継承の重要性を考え、「農」と「里」の大切さを理解する心を育(はぐく)むことを目的として行われた。石畳の宿でも、わら細工や竹細工などの農村体験学習が行われた。

写真3-32 石畳の宿の玄関

写真3-32 石畳の宿の玄関

喜多郡内子町石畳。平成17年7月撮影

写真3-33 いろりのある板の間

写真3-33 いろりのある板の間

喜多郡内子町石畳。平成17年7月撮影