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えひめ、その住まいとくらし(平成17年度)

(3)木取りから地業まで

 **さんは家づくりの着工段階のことがらを次のように話した。

 ア 木取りと木造り

 「今は製材から国産材、外国材などの木を取り寄せますが、本来はその土地に育った木が、その土地の家には一番ふさわしいのです。山を買って木取りをするときは、まず山主に会って境を聞かせてもらい、それから山へ入りました。境界に縛り付けられた印をたどって行って、全体の境の確認をします。それから木を切り倒して、次に下ろし方を決めます。ワイヤー(林業用索道)で下ろすか、トラックで下ろすかということですが、費用と早さの両方から、滑車で吊(つ)ってワイヤーで下ろす場合が多かったように思います。林道を付けると相当の費用がかかります。
 木造りはまず柱周りを取って、土台の材料はこれ、柱材はこれ、小屋梁はこれというふうに取って行くわけです。そしてそれぞれ部材ごとに仕分けて整理しておきます。柱や梁などの構造材にはマツ、スギ、ヒノキなどを使いますが、床板にはナラ、ブナ、カエデ、敷居にはサクラ、ケヤキ、カシというように部位によって、それぞれ木の種類を選びます。それらを製材して板材や角材とし、乾燥させます。次に木の表、裏を見て、継ぎ手や仕口の形を墨で描き、組み合わせの印を付けていきます。それらの部材を作業場できちんと下ごしらえをし、仕上げをしてゆくのです。
 継ぎ手と仕口については、次のようなことが大切だと言われています。
   ① 組まれた材が完全に密着し一体となって、外力、荷重の力を伝えること 
   ② 建て方の順序を考えて細工してあること
   ③ 腐食などによる補修の際、部材を取り替えることができる組み方の手順になっていること
   ④ 仕上がりの外観(見え掛かり)を単純にあっさりとみせること(①)

 イ 地鎮祭

 家を建てる前に家の敷地を清めます。私の場合、ある人が『里の氏神様はどこへ出て行ってもついて行くものじゃ。』と教えてくれました。そこで郷里の由良半島まで帰って、氏神様へ御神酒を供えて、神主がいないお宮なので、『私はこの土地に生まれたこういうものですが、この度、家を建てることになりましたので、お祓(はら)いの土をいただきに参りました。』とお祈りを上げて、そこの土をいただいて帰ったのです。それを敷地の四方の角に埋めて拝みました。
 一般にはその場所により、また施主との打ち合わせにより違いはありますが、屋敷にササダケを1~2間(約1.8m~約3.6m)四方の四隅に立てて、白い注連縄(しめなわ)を張ります。注連縄からは御幣(ごへい)を垂らします。神主が祝詞(のりと)を上げてお祓いをして、次に施主、設計者、請負人、大工、親戚の人などが拍手(かしわで)を打ち拝みます。そしてここに家を建てようという場所に砂を盛り上げます。その上にカヤの根を1株植え付けます。次に鍬(くわ)入れをするのですが、初めの人は『えい、えい。』と掛け声だけで鍬を入れます。最後に棟梁が『えい。』と一声掛け、砂の上にカヤを掘り起こすのです。式の日は暦を調べて普請、建築にふさわしい吉日(例えば、大安)を選ぶのです。

 ウ 地業

 まず帳張り杭(くい)を立てます。家を建てようと思う場所から、60cmくらい離れた所に糸を引いて、貫(ぬき)板が打てる間隔に、2間(約3.6m)の貫板なら1間ずつ杭を打って行くのです。そのようにして、次にレベル(水準器)を見て行くのです。それから芯(しん)出しをします。ここを基準にして、家をこのように建てるということを決めて行くのです。裏に納屋を取りたいとか、境界との距離はどのくらいとか考えて、実際に生活したときの位置関係に無理が起こらないように、建物の配置を決めます。次に大曲(おおがね)を当てて曲角(かねかく)を出して行くのです。大曲は『さん、しい、ご。』(あるいは『さしご、さしご』とも言う。)と言って3尺、4尺、5尺(約91cm、約121cm、約152cm)の3片で直角を出した木製の大定規なのです。大きい家になると、6尺、8尺、10尺の大曲を使います。それからここは6畳とか、ここは8畳というふうに、尺間をとって行くのです。このようにして、建物の平面の占める領域を原寸大に表して行くのです(①)。
 次に間仕切りの所に土台を敷いて、2間に一か所くらいは、地業(建築前の地固め)の基礎の石を十文字に入れるのです。今はランマーという機械(展圧機)で、ダッ、ダッ、ダァッと二人で突きますが、昭和40年ころまでは、人を雇って突いていました。丸太で櫓(やぐら)をこしらえて、中へ心棒を立てて、女の人の専門でやる人たちがいて、『それーまけー、よいとまいた。それーまけー、よいとまいた。』と掛け声高く、胴突きをして地固めをしていたのです。12人くらいで、櫓から下ろした一つの縄に3人ずつ取りかかって、四方から引いて突き固めたものです。男が突くこともありましたが、女の人は力加減が満遍なく突けるので、一時期専門に胴突きをする女の人が出てきたのです。石の配置や詰め方は、大工が管理して、10cm以上のぐり石を立てた形に詰めて置いていました。
 また大曲の次に、今から建てる家に唯一の大事なものさしとして、柱杖を作ります(写真1-3参照)。これはヒノキまたはスギの小割材に目盛りを付けた物です。土台、貫、敷居、鴨居、桁(けた)などの取り付け位置を印して、現場で自分が使いやすいように、自分で作ります。長さは決まっておりませんが、2間前後のものが多いようです。」

写真1-3(左) **さんの柱杖

写真1-3(左) **さんの柱杖

宇和島市丸穂町。平成17年11月撮影

写真1-3(右) **さんの柱杖

写真1-3(右) **さんの柱杖

宇和島市丸穂町。平成17年11月撮影