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えひめ、その食とくらし(平成15年度)

(2)愛媛の食事情

 ア 愛媛の現状

 平成13年(2001年)、県民の健康寿命(心身ともに自立して健康に生きることのできる期間)を伸ばすことを目的とする県民健康作り計画「健康実現えひめ2010」が策定された。“みんなでめざそう!!健康実現”をスローガンに、県民総ぐるみの健康作り運動を進めるというものである。
 この「健康実現えひめ2010」では、愛媛の食の現状を、「時代の変化に伴い、県民の食生活は向上してきたが、一方で、核家族化の進行、外食産業の増大、食や健康に関する情報の氾濫など、食を取り巻く社会環境も大きく変化し、エネルギー・栄養素の過剰摂取と摂取不足が混在する状況が生じたり、加工食品や特定食品への過度の依存や若い女性のダイエット志向など新たな問題も生じてきている。県民の栄養状態は、平均的にはおおむね良好であるが、各年齢層において生活習慣病にかかわる食習慣の問題がみられる。特に、幼少年・青壮年期の食生活面において改善すべき点が多くみられる。(⑫)」と分析している。
 この計画の基礎資料となった『平成11年愛媛県県民健康調査報告書』(集計対象者1,630人)から、県民の栄養状況や食品摂取の現状を探った。
 県民1人1日当たりの栄養素等摂取量は前回調査が行われた平成6年(1994年)と比べると、エネルギー摂取量(1,990kcal→1,963kcal)は低下しているが、たんぱく質(78.5g→81.1g)、脂肪(55.4g→56.1g)は増加している。また、カルシウム(584mg→611mg)、ビタミン類(A:2,118IU→2,822IU、C:95mg→108mg)も増加している。炭水化物(278g→273g)、食物繊維(14.2g→13.4g)については減少傾向である。
 この数値を調査対象の平均栄養所要量(健康を維持増進し、成長するために必要なエネルギーや栄養素の量を示したもの)に対する充足率でみると、エネルギーをはじめすべての栄養素について所要量を上回っている。ただ、年齢別にみると、5歳以下で鉄、ビタミンCが不足し、15歳から19歳、20歳から39歳では、エネルギー、カルシウム、鉄、ビタミンB1、ビタミンB2が不足している。60歳以上の高齢者層では、すべての栄養素を満たしている(図表1-2-3参照)。
 エネルギー摂取量に占める脂質エネルギー比率は、男性の15~39歳、女性の15~59歳で、適正比率の上限25%を超えている。
 県民1人1日当たりの食品群別摂取量は、平成6年と比べて、いも類、野菜類、肉類が増加し、酒類や缶コーヒーなどの調味嗜好(しこう)飲料が減少した。各食品の摂取量は、全国平均(平成11年〔1999年〕度)とほとんど変わらない状況である(図表1-2-4参照)。
 小・中・高校生(6~17歳)では、朝食を「ほとんど食べない」あるいは「時々食べる」が6.0%で、その理由は「食べる時間がないから」が59%であった。18歳以上で朝食を食べない人は、10人に1人の割合である。特に若年層の欠食率が高く、18歳~39歳の男性では3人に1人、18歳~39歳の女性では4人に1人が朝食をとっていない。
 「半調理食品」や「総菜(そうざい)」の利用頻度では、週1回以上利用する者が43.7%で、総菜などを利用する理由は、「調理の手間が省ける」が46.3%、「時間にゆとりがない」が26.7%、「おいしいから」が9.1%となっている。
 次に、県民の約40%強が居住している中予(ちゅうよ)地域で実施された二つの健康意識調査の報告書を手掛かりに、愛媛の人々が何をどのくらいの頻度で食べているかを探った。二つの報告書は、平成11年松山市保健所が実施した『松山市民健康意識調査 調査報告書』(集計対象者2,388人)と松山中央保健所が管内15市町村(以下周辺市町村と記す。)を対象に実施した『平成12年度 健康意識調査報告書』(集計対象者2,262人)である。
 食品摂取頻度の傾向を調べた調査結果の中から、特定の食品を週3回以上摂取する者の割合をまとめたものが図表1-2-5である。松山市とその周辺市町村を比べてみると、乳製品が大きく異なっているが、他の食品ではほとんど似たような傾向である。
 これらの食品の年代別摂取頻度を比較してみると、魚、ダイズ製品、乳製品、緑黄色野菜、海藻・その他の野菜は、どちらの調査とも年代が上がるにつれ摂取頻度が高くなる傾向にある。年代が上がるにつれ摂取頻度が低くなる傾向があるのは、肉類のみである。卵については、男女、年代別の差異はあまりみられない。また、男女間の傾向としては、乳製品、緑黄色野菜、海藻・その他の野菜などで、女性の摂取頻度が男性より明らかに高い傾向がある。
 外食については、「毎日1回以上」が松山市では11.0%、周辺市町村では3.0%であり、「ほとんど外食しない」は64.8%と63.0%であまり変わらない。すしや持ち帰り弁当、おにぎり、サンドイッチなどの主食的調理食品の利用頻度については、「毎日1回以上」が松山市では4.8%、周辺市町村では4.0%であり、「ほとんど利用しない」は、69.2%と82.6%となっている。外食、主食的調理食品とも、男女で比較すると男性の方が女性より利用頻度が高く、男女とも、若い年代ほど利用頻度が高い傾向である。
 全体的傾向としては、年代が高くなるほどバランスのとれた食生活をしていること、低い年代の者ほど不規則な栄養的に偏った食生活を送っていることなどがうかがえる。

 イ 面河村の取り組み

 県の中南部に位置する上浮穴(かみうけな)郡面河(おもご)村は、平成12・13年度、日本体育・学校健康センターによる「学校給食における学校・家庭・地域の連携推進事業」の指定を受け、「学校給食を通じてバランスのとれた食生活の推進を図る~郷土の特産物を生かした豊かな食生活の普及を通して~」という研究主題で取り組んだ。2か年の実践の中では、全戸を対象とした「食に関するアンケート調査」をはじめ、給食試食会や児童、生徒、保護者や各種団体(老人クラブ、公民館、生活研究グループ、保健栄養推進協議会、PTA)等との交流を含む給食会等、郷土の食材を生かした特色ある取り組みが行われたという。ここでは、その時の『研究収録』をもとに、面河村の食生活の現状と改善の取り組みを探った。
 面河村は、石鎚山(いしづちさん)をはじめ四国山地を代表する山々に囲まれ、中央部を仁淀(によど)川の源流面河川が流れる人口1,000人足らずの山村である。農林業を主産業とし、米・茶・トマト・ピーマン・コンニャクなどの作物に加え、マイタケや花の栽培も盛んに行われている。食生活の面では、自分の畑で作った作物を食べており、高齢化、過疎化とともに、買い物に出かけることは少なくなり、移動スーパーなどを利用することが多いため、野菜以外の生鮮食料品はいつでも手に入るわけではない。一方、比較的若い世代のいる家庭では交通の便が良くなったこともあり、久万(くま)町や松山市から簡単で便利な食品を手に入れることができ、食生活が変化してきた。子どもたちの好きな食べ物も、洋食に偏る傾向がある。
 食生活改善の取り組みを始めるに当たって実施した保護者対象のアンケート調査によると、子どもたちの家庭でよく作る料理は、カレーライス・煮物・サラダ・空揚げ・天ぷら・ハンバーグなどとなっている。地域の特産品を使った郷土料理を作るかという質問に対しては、平均して40%余りの人がほとんど作らないと答えている。また、朝食の欠食、ピーマンやチーズなどの好き嫌い、スナック菓子や炭酸飲料主体の間食などさまざまな問題が明らかになった。
 村全体を対象にしたアンケート調査では、高齢者は栄養に偏りがあること、全体的にカルシウム不足であること、野菜や果物の摂取不足、塩分の過剰摂取、食事時間が短いなどの問題点が出てきた。
 そこで、バランスのとれた食事をしよう、カルシウム不足に気をつけよう、野菜をしっかり食べて果物も適度に食べよう、薄味に心がけよう、食事はゆっくりよくかんで食べようという五つの目標を決め、村の栄養士が毎月発行する広報誌『ふれあいひろば』や教育委員会発行の『広報おもご』で、目標達成のためにどう取り組めばよいのかを具体的に紹介し、食生活の改善を呼びかけた。
 また小学校では、親子給食試食会、親子料理教室、給食通信などで、よくかむことやカルシウムをとることの大切さを繰り返し指導するとともに、給食の中に郷土料理や地域の特産物を取り入れ、子どもたちの地域に対する関心を喚起した。中学校では、家庭科の時間に「面河の郷土料理を作ろう」というテーマで、かも鍋(なべ)やしょうゆ餅(もち)、マイタケを使った料理を作り味わった。さらに、文化祭では、老人クラブや保護者など100名ほどの村民が、生徒とともにまいたけご飯、しし汁、ゼンマイの白和え、ジャガイモの山椒味噌和(さんしょうみそあ)えなどの郷土料理を一緒に作り、試食して交流を深めた。
 保護者に対する取り組みとしては「おかあちゃんのお菓子作り」、「おとうちゃんの料理教室」を開催した。お菓子作りでは、保護者12名が、はったい粉(麦などを炒(い)って焦(こ)がし、挽(ひ)いて粉にしたもの)やヨモギといった地元で取れる食材を使い、シフォンケーキ(小麦粉・卵・砂糖・サラダ油で作る素朴なふんわりしたケーキ)やダッグワーズ(泡立てた卵白にアーモンド粉と砂糖を合わせた生地で作った焼き菓子)を作った。おとうちゃんの料理教室では、郷土料理の「石鎚天狗(てんぐ)鍋」(醬油味のかも鍋と味噌味(みそあじ)のぶた鍋)を作った。この後、男性料理教室は毎年開かれているという。
 こういった取り組みの後、再度同様のアンケート調査を実施したところ、バランスの良い食事を心がける人や時間をかけて食事をする人、乳製品を毎日取る人の割合が増えた。一方、「食事が楽しくない」という人の割合、揚げ物やインスタント食品の摂取割合は減少した。さらには地域の特産物を利用した献立や郷土料理給食の実施により、子どもたちの地域に対する関心が高まったという。

図表1-2-3 平均栄養所要量に対する栄養素等摂取量の充足率(年齢別)

図表1-2-3 平均栄養所要量に対する栄養素等摂取量の充足率(年齢別)

『平成11年 愛媛県県民健康調査報告書(⑬)』より作成。

図表1-2-4 1人1日当たりの主要食品群別摂取量

図表1-2-4 1人1日当たりの主要食品群別摂取量

『平成11年 愛媛県県民健康調査報告書(⑬)』、『国民栄養の現状(⑭)』より作成。

図表1-2-5 食品摂取頻度(週3回以上)

図表1-2-5 食品摂取頻度(週3回以上)

『松山市民健康意識調査 調査報告書(⑮)』、『平成12年度 健康意識調査報告書(⑯)』より作成。