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瀬戸内の島々の生活文化(平成3年度)

2 芸予諸島の薬草

 魚島・高井神島・弓削島・岩城島・伯方島・大三島・大島・小島・岡村島・小大下島・大下島には、これまでに約700種の陸上植物(栽培種を含む)と、水中植物約85種が記録されており、その内薬草として利用できるものは約150種である。
 平成3年12月12日、岩城島の薬草を確認するため、現地踏査に出向く。植物分類学の研究者である薦田典夫氏のお世話である。
 岩城村教育委員会の文化財担当職員に案内されて、三浦本陣・祥雲寺・積善山のコースをたどる道々、路傍の植物を確認しながら、薬草を利用しているお年寄りは居ないか尋ねてもらった。
 祥雲寺で観音堂を拝観し、下山しようとしてお目にかかっだのが、**さん(祥雲寺住職夫人、72歳)である。
 御主人は、住職を務めながら、定年まで村役場に勤務され、収入役・助役を歴任されてから引退されたという。
 「主人の心臓が弱いものですから、退職してからずっと、ジュウヤク(ドクダミ)をせんじて飲ませています。現職の頃も、ゲンノショウコとクコは欠かしたことがありませんでした。嫁いで来た時には、主人の母親がせんじておりまして、それを引き継いだ形になったのです。主人は元々胃腸が弱かったものですから、子供の頃から飲んでいたらしゅうございます。クコは岩城島にも沢山あるので、それを取ってもよし、芽を挿してもよしで不自由をしませんでした。」という。
 寺へ来る人たちにも薬草を勧めたが、最近は、島の人もあまり利用していないようで、薬局の薬で応急処置をする若者達が増えたようだ。しかし、お年寄りには、この島で取れる薬草の世話になっている人もあり、漢方薬がブームになっているから、また見直されるのではないかと、目を輝かせて話して下さった。
 傍で、ゆっくりお茶をすすりながら、じっと話を聞いておられた御主人(76歳)は、奥さんの話にうなずきながら、ただ、にこにことされるばかり。お顔の色もよく、お元気そうであった。

(1)長寿と薬草

 大三島町明日に、退職後、町の文化財保護審議委員をされながら、植物の研究を続けている**氏(63歳)がおられる。今回の調査にも大変御協力をいただき島の植生についても貴重な研究資料をいただいたが、特に、島に伝わる祭事と自然のかかわりについては、調査の協力をお願いした。**氏のお父上は101歳で、今も大変お元気である。
 「父親は、腸が弱くて、10代はゲンノショウコを飲んだらしい。ゲンノショウコには、整腸の働きがあるので、母親が根気強く飲ませたようです。100歳まで、大山祇神社の境内へ行って、観光客のガイド役を買って出て、長寿で元気にあやかりたい観光客とカメラに収まることも多かったようです。」
 薬草の利用が次々と聞けるものと期待したのであるが、彼の言う「長寿の秘けつ」は違ったものであった(20歳から始めて、80年間欠かさなかった日記と毎朝の柔軟体操、要は体の柔軟性と頭脳を働かせることだと力説。)。
 島には長寿の人が多いという。海産物のミネラルを含んだ栄養素がよいともいう。なるほど、今回訪問した島々は、若者の流出にもよるのであろうが、元気な老人が目につく。
 **氏も、101歳の父親が、弱かった腸をゲンノショウコによって20歳までに治したことが長寿の基礎であったことを認めるように、先祖から受け継がれた「生活の智恵」として、身近な薬・食草が利用され、その効果が、島々に健康な老人として実を結んでいるようにも思える。
 たしかに、島に薬草は多い。種類もさることながら、かなりの群落として分布している。以下、島に現存する薬用植物を、廣川薬用植物大事典、原色日本薬用植物図鑑及び原色牧野植物大図鑑によって紹介する。

(2)島の薬草

 約150種の薬草のうち、現在もお年寄がよく利用しているのは12種類ほどで、薬草が豊富な割にはあまり利用されていない。

 ア 現在利用されている薬草

  ① ウメ(バラ科、栽培種)

 未熟の果実をくん製にした烏梅(うばい)、梅肉エキス、梅干、梅酒などがあり、一般に薬としては梅肉エキスが多く利用されている。効用は下痢・腸チフス・コレラなどである。
 烏梅はせんじて飲むと解熱・せき止め・たんとりに効果がある。果実の成分としてはクエン酸・リンゴ酸・コハク酸・酒石酸・シトステロール・オレアノール酸などを含んでいる。

  ② キランソウ(シソ科)

 ヘチマの水をとる要領でとった汁液は、せき止めや風邪の薬になる。果肉をすりつぶして布でこした液は、やけどやあせもに塗ると特効がある。

  ③ クコ(ナス科)

 各島の海岸線に繁茂している。全草を取り、陰干ししたものをせんじ茶がわりにして飲むと肝臓病・高血圧・健胃・便秘・強壮などに効き、昔から長寿の薬として利用されている。
 また、葉にはルチンとカリウムが含まれているので、くこ茶を常用していると動脈硬化の予防になる。
 根皮を乾燥したものを「地骨皮(じこっぴ)」といい、せんじて飲むと結核・糖尿病・せき・寝汗などに効き、漢方で消炎解毒・強壮剤に使う。
 果実で作るくこ酒は強壮剤である。

  ④ シソ(シソ科、栽培種)

 葉や種子を陰干しにし、せんじて飲むと精神不安・せき・利尿・健胃に効く。青ジソの青汁が肺・胃がんに効くという。また、青ジソの葉の焼酎漬か神経痛・リュウマチ・腰痛・体のしびれなどに特効があるといわれ、漢方では発汗・鎮静・せき止め・利尿剤に使われる。シソの精油の主成分はペリラアルデヒド・リモネンなどである。

  ⑤ スギナ(トクサ科)

 地上部を乾燥してせんじて飲むと、腎臓病・ろく膜炎によい。漢方で「問(もん)けい」といって利尿剤に使う。成分は多量のケイ酸と脂肪・エクイセトニン・ガルテオリン・ビタミンCである。

  ⑥ センブリ(リンドウ科)

 大三島に比較的多い。秋、全草を取って陰干しにし、熱湯を注いで振り出して飲めば健胃(胃痛・胃酸過多・胃けいれん)・腸カタル・下痢・腹痛・便秘・虫下し・感冒・じんま疹・二日酔いなどに効く。漢方では健胃・整腸薬として使う。成分は、苦味配糖体のスウェルチアマリン・スウェルチアノール・オレアノール酸などである。

  ⑦ タンポポ(キク科)

 開花前・開花時の全草を取り、陰干しにしてせんじて飲むと健胃・整腸・強壮・肝臓病・胃腸カタル・便秘・解熱にも効く。また、おできやはれものに全草をすりつぶして張りつけるとよい。漢方で「蒲公英(ほうこうえい)」といい、健胃・催乳剤に使う。成分は、根にアスパラギン・イヌリン・リノール酸など、乳液に苦味質のタラクサシンがある。

  ⑧ ツルナ(ツルナ科)

 海岸植物なので、各島海岸部に多い。花期に全草を取り、陰干しにしてせんじて飲むと胃酸過多・胃かいように効く。青汁も胃がんによく効くともいう。漢方で「ばんきょう」といって健胃剤に使う。浜に生えているチシャのようで、葉を食用とする。

  ⑨ ドクダミ(ドクダミ科)

 各島で一番よく利用されている植物の一つである。花期に地上部を刈り取って日干し(陰干しにしたものを切って、天日にあてる)にし、せんじて飲む。化膿性疾患・はれものなどの解毒薬になり、利尿薬として腎臓病に使うほか、ぼうこう炎・ろく膜炎・神経炎・頭痛・のぼせ・高血圧・便秘にも効果がある。生の葉を火であぶって、はれもの・化膿に張ると効果がある。漢方でも消炎・利尿・解毒剤として使っている。

  ⑩ ビワ(バラ科、栽培種)

 春に葉を取り、裏面の毛を除いて乾燥し、せんじて(びわ葉湯)飲むと暑気あたりによく効く。また、利尿・健胃剤にもなる。浴湯料にすると皮膚を滑らかにし、あせもにも効く。

  ⑪ ユキノシタ(ユキノシタ科)

 生葉をあぶって、はれもの・火傷・凍傷にはると効く。濃いせんじ汁を塗ると、うるしかぶれによい。全草の出汁を飲むと、小児の百日ぜき・ひきつけに効く。この草は「虎耳草(こじそう)」といい、漢方で凍傷の治療に使う。

  ⑫ ヨモギ(キク科)

 ドクダミとともに、島の人々が最もよく利用する薬草である。地上部を刈り取り、陰干しにしてせんじて飲むと腹痛・健胃・吐血・下痢・赤痢・神経痛・ぜんそく・目の疲労・頭痛・冷え症など広い範囲の効果があり、強壮剤にもなる。切り傷には葉をかみ砕いてはりつけると効果がある。若葉をつき込んで「よもぎ餅」にしてもよく食べる。

 イ 島にみる他の薬草

 栽植種を除き、島の主な102種類の薬草をまとめてみた。

島の主な102種類の薬草 図1

島の主な102種類の薬草 図1


島の主な102種類の薬草 図2

島の主な102種類の薬草 図2


島の主な102種類の薬草 図3

島の主な102種類の薬草 図3


島の主な102種類の薬草 図4

島の主な102種類の薬草 図4


島の主な102種類の薬草 図5

島の主な102種類の薬草 図5

(注)特別に記したもの以外は、せんじて飲む。