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瀬戸内の島々の生活文化(平成3年度)

(2)船の構造と製作工程③

 イ 和 船

  ① **さんの製作工程と船の構造

 折悪しく製作状況を見聞できず、聞き取りに基づいて小型の釣船の製作について、工程をたどってみた。

   一 カーラ(船底材=航(かわら))をすえる。
     2枚の板をクギサシノミで穴を開けておいてからヌイクギと接着剤でつけ、焼いて曲げる。

   ニ ミヨシ(水押し)をつける。

   三 戸立(とだ)てをつける。
     鉄ボートー(ボルト)により、ナットで固定する。外に出る部分はエポキシ樹脂やパテで埋め、水や空気に触れない
    ようにする。

   四 中棚(外板の船底部分)をつける。
     他の船大工は型板を使うが、**さんはイギリス(万力)で棒を斜めに立てて、それを基準につける。カーラと中棚
    は、ノミで通(とお)し穴を開けてからトオリクギ(カサクギ)を外側から打つ。

   五 船のしきりを入れる。
     コモチ(船底の補強横通し材)の代用としての役割も果たす。

   六 上棚(外板の上部)をつける。
     表(船首)から櫨(船尾)にむけてつけていく。

   七 船体の上部の仕上げとエンジンの据付け。

  ② **さんの製作工程

 **さんに比べ、やや大型(10~100tクラス)の和船構造の船を戦前に造ってこられた、**さんの工程の特色を簡単にまとめた。

   一 カーラをすえる。

   二 戸立てとウチミヨシをたてる。

   三 中棚をつける。
     型板を入れて、その型に合わしてつける。大きい船ならそれほど木をまげなくてよい。

   四 コモチをつける。

   五 上棚をつける。

   六 船梁を入れる。

   七 しきり(隔壁)を入れる(普通2か所)。

   八 レールと雨おさえをつける。

   九 甲板や操舵室等の仕上げ、ソトミヨシをつける。

 ウ 船大工の道具と原材料

  ① 船材について

 「外板等の主要な材料は、日向(ひゅうが)(宮崎)の弁甲(べんこ)杉を使います。そこらあたりの杉板を持ってきても駄目です。日向弁甲は、粘りがあって曲げても割れにくく、釘の効きもいいのです。また水につけておいても、他の木よりずっと長持ちします。木の質次第で船の出来も違ってきます。木のあたりはずれがありますから、事前に(代金の)見積りをしろと言われるのが、出来不出来が後で出てきて一番つらいんですわ。先年の国民文化祭の際の水軍復元船を造る時には、宮崎の山まで直接木を見にいきました。ミヨシ・船張りはひのきを使います。船材の輸送は以前は船で丸太のまま引っ張ってきて、こちらに着いてから製材してましたが、7・8年前からトラックになりました。仕入れは今治の製材所からでしたが、そこも取扱いを止めてしまったので、今は尾道の方から仕入れています。海に浮かべていると材木の善し悪しがよくわかります。まず節の腐ってないよく浮いている木がいいものです。その中で、人によっては目が粗(あら)い若木の方がよいといいますが、それは大きい船の場合で、私の造る小船には、樹齢をある程度経(へ)た脂の乗った目地の小さい木の方がよいと思っとります。木の赤身(中心部分)だけを使い、白いところは捨てます。赤身は伸縮が少ないからです。」
 「船板には日向弁甲を使います。弁甲ですと、マストが折れる時もメリメリと音がしてから逃げる間がありますが、他の木ですとポキンと折れます。本当は半年ほどよく乾燥させて使うのが一番いいのです。私の所にも手持ちはある程度ありましたが、船というのは注文生産なので、お客次第でよく乾かす暇もなく切らんといかん時もあります。だいたいは『寒切(かんぎ)り』言うて、冬に切るのが一番いいんですが、実際はそうも言っておれません。しかしなるべく梅雨時は(湿度が高くて本の体積が増えているので)避けたい。梅雨に船を造って進水してから夏のかんかん照りの中に置くと、木が縮んで船材の間にすきまができてしまいます。仕入れは今治の専門の材木屋からしてました。外板や甲板、マスト等は弁甲ですが、キールやスマント(肋骨)にはマツを使いました。雨ホゾ等は腐りにくいためヒノキを使うこともあります。」
 「カーラやコモチにはマツを使いました。ウチミヨシはヒノキ、ソトミヨシはケヤキを使うことが多かったです。外板や甲板、マストは弁甲です。大阪の弁甲屋さんに頼んだら、一尋(ひろ)弁甲、二尋弁甲と尋単位で持ってきます。厚さは一寸五分が普通でした。」

  ② 道 具

 「船釘は(広島県の大崎上島の)木江から専門の行商船で来る**さんや、尾道の業者から購入します。釘は、カサクギ(通り釘とも呼ばれ、外板とカーラ等、板を外から打ち付けるためのもの)とヌイクギ(板をはぎあわすために使う=(1)参照)、カイオレクギ(ヌイクギより大きく長く、甲板部のてすり等をつける)の3種類が主です。昔は鉄そのものを使っていましたが、ここ数十年は亜鉛がけの釘を使っています(写真3-5-17参照)。亜鉛がけはテンプラ釘またはドブヅケと言って、水中で腐りにくく抜けにくいのです。もっと昔は銅の釘を使っとったらしいですが、私等のころはもうなかったです。船釘は平面になっていますが、これは木に対して表面積が大きく、摩擦を強くして抜けにくくするためです。ボートー(=ボルト、ナット付きのねじ釘)は戸立等のきちんと固定しなければならない所に使い、現在は全部ステンレス製です。釘を打つ際には全部最初にクギサシノミ(写真3-5-18参照)で穴を開けておいてから打ちます。これは打つ際に釘が変な方向に行かないようにするためです。
 外板を合わせていく際に、最後に3・4回スリノコ(写真3-5-20参照)で鋸ずりをして、ハギジ(ハギ板とジ板)の板どうしのでこぼこを合わせます。ここでピタッと合わせるのが腕の違いで、鋸ずりができたら一人前です。船材の間には以前は必ずマキハダ(写真3-5-19参照、ヒノキの皮を縄状にしかもので、水につけるとふくらんで水を通さない)を入れてました。外板が乾いてすきまができた箇所にもつめます。外板を取り付けた後、クチアケノミで板の間を開けてマキハダを入れ、ノミウチでマキハダを打ち込んでいきます。十数年前から接着剤の良い物が出始め、今はエポキシ樹脂を主に使っています。それでも中棚とカーラの間だけは、現在でもマキハダを使ってます。全部接着剤で固定してしまうと、無理な力がかかった時に割れるからです。」
 「板を付けるにはタック(写真3-5-21参照)を主に使っていきます。タックの頭の周りにはマキハダを巻いてから打ち込みます。外板の要所要所には木ボートー(写真3-5-21参照)を使います。梅雨時に進水した時等は、乾いてすきまの開いた所にさらにマキハダを詰めます。」 
 「船頭さんは『鉄の釘などさびて信用できん』と言って、昔は全部木ボートーを使っていました。キリで穴を開けておいて、木ボートーを打ち込み、板をつきぬけて木ボートーが頭を出すと、そこにくさびを打ち込んで広げ、抜けないようにしてました。マキハダは(広島県の)木江から購入していました。木江では、女の子が生まれるとヒノキを植え、結婚の時の持参金代わりにしていると、聞いております。」

図3-5-7 **さん製作の釣船の構造図と各部の名称

図3-5-7 **さん製作の釣船の構造図と各部の名称


写真3-5-15 船底の構造(**さん製作)

写真3-5-15 船底の構造(**さん製作)


写真3-5-16 **さん製作の泥船模型(昭和初期のもの)

写真3-5-16 **さん製作の泥船模型(昭和初期のもの)

生名八幡神社所蔵。平成4年2月撮影

図3-5-8 上記写真の構造図と各部名称

図3-5-8 上記写真の構造図と各部名称


写真3-5-17 船釘

写真3-5-17 船釘

**さん所有。左3本はカサクギ、右2本がヌイクギ。左はノミウチ。平成4年1月撮影

写真3-5-18 各種ののみ

写真3-5-18 各種ののみ

**さん所有。左2本がくぎさしのみ、右2本はぬいさしのみ。平成4年1月撮影

写真3-5-19 マキハダ

写真3-5-19 マキハダ

**さん所有。平成4年1月撮影

写真3-5-20 スリノコ(鋸)

写真3-5-20 スリノコ(鋸)

手前はアナスキ。**さん所有。平成4年1月撮影

写真3-5-21 タックと木ボートー

写真3-5-21 タックと木ボートー