学び舎えひめ<you遊コラム>

■ かんむり座 ~ 天に昇ったアリアドネの冠

新緑が目にまぶしい季節がやってきました。せっかくの緑も夜の闇の中では楽しむことができませんが、代わりに初夏の訪れを耳で楽しむことができます。天体観測館の周辺で、多くの鳥の声を聞くことができるからです。それはフクロウ、ヨタカ、ホトトギス、トラツグミといった鳥たちです。夜行性の鳥が意外に多いことに驚かされるとともに、夜中まで起きている彼らに、何となく親近感をおぼえてしまいます。
 そんな初夏の空の頭上高く輝く星は、うしかい座のアークトュルスです。また東の空には、織姫星の愛称で知られる、こと座のベガが光っています。この二つの星を結ぶ線上、アークトュルスにやや近いあたりに目をやると、七つの星が作る小さな半円形が見つかります。ここはかんむり座です。ラテン語での正式な名称はコロナ・ボレアリス、直訳すると北のかんむり座です。夏の宵の空、南の低空に見える「みなみのかんむり座」とペアになった名前ですが、なぜか日本では単に「かんむり座」と呼んでいます。
 ギリシャ神話では、クレタ島の王女、アリアドネの冠とされます。迷宮に住む怪物ミノタウロスを退治するためにやってきたアテナイの王子テーセウスに一目ぼれした彼女は、剣と迷宮から抜け出す目印となる毛糸の玉を手渡します。このおかげで怪物退治に成功したテーセウスは、アリアドネを連れて島を出ますが、途中に立ち寄ったナクソス島で神のお告げを聞き、あろうことか彼女を置き去りにして国に帰ってしまいます。嘆き悲しむアリアドネをなぐさめたのは、酒の神デュオニッソスでした。やがて彼は妻に迎えたアリアドネに金でできた冠を贈りますが、彼女の死後これを空に上げて星座にした、と伝えられています。
 ところで良く目立つ聖座のため、日本でも各地に様々な名前が残っています。たとえば、くびかざり星、ゆびわ星といった名前があります。ただの半円形の星の並びですから、もっといろいろなものの形が想像できそうなものですが、洋の東西を問わず、星のキラめきは宝石の輝きを連想させるのかも知れません。
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